訳すのは「私」ブログ

書いたもの、訳したもの、いただいたものなど(ときどき記事)

『世界文学アンソロジーーーいまからはじめる』三省堂・目次公開

7月19日、三省堂より共編著『世界文学アンソロジーーーいまからはじめる』を刊行いたします。

 

20世紀の「世界文学全集」ではなく、21世紀の「世界文学アンソロジー」を編もうと、

2016年より編者と会議を重ねてきました。その結果をリリースできるのはうれしいです。

 

刊行に先立ちまして、その収録作品をいち早く公開させていただきます。

  

 言葉―すべてのはじまり

 

エミリー・ディキンスン(アメリカ)「ことば」(詩)谷崎由依

 

李良枝(韓国/日本)「由煕」

 

サイイド・カシューア(イスラエル/アラブ)「ヘルツル真夜中に消える」細田和江訳

 

自己―まるで檻のような

 

フェルナンド・ペソーア(ポルトガル)「わたしは逃亡者」(詩)福嶋伸洋訳

 

ハンス・クリスチャン・アンデルセンデンマーク)「影法師」大畑末吉訳

 

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ(アメリカ)「なにかが首のまわりに」(※「アメリカにいる、きみ」改題)くぼたのぞみ訳

 

孤独―記憶はさいなむ

 

フォローグ・ファッロフザード(イラン)「あの日々」(詩)鈴木珠里訳

 

ジェイムズ・ジョイスアイルランド)「土くれ」柳瀬尚紀

 

魯迅(中国)「狂人日記」橋本悟訳

 

家族―かけがえのない重荷

 

石垣りん「子供」(詩)

 

プレームチャンド(インド)「私の兄さん」坂田貞二

 

チヌア・アチェベ(ナイジェリア )「終わりの始まり」秋草俊一郎訳

 

戦争―崩れゆく日常

 

パウル・ツェラーン(ルーマニア)「死のフーガ」(詩)平野嘉彦訳

 

イサーク・バーベリ(ロシア)「ズブルチ河を越えて/私の最初のガチョウ」(『騎兵隊』より二編)中村唯史

            

フリオ・コルタサル(アルゼンチン)「グラフィティ」山辺弦訳

 

環境―わたしたちを取り巻く世界

 

ファン・ラモン・ヒメネス(スペイン)「わたしはよく知っている/鳥達は何処から来たか知っている」(詩)伊藤武好・伊藤百合子訳

 

石牟礼道子「神々の村」

 

クリスタ・ヴォルフ(東ドイツ)「故障――ある日について、いくつかの報告」中丸禎子訳

 

愛―いつだってつなわたり

 

コレット(フランス)「ジタネット」工藤庸子訳

 

イタロ・カルヴィーノ(イタリア)「ある夫婦の冒険」和田忠彦訳

 

莫言(中国)「白い犬とブランコ」藤井省三

 

悪―絶対やってはいけません

 

フランツ・カフカチェコ)「夏の暑い日のこと……」川島隆訳

 

アズィズ・ネスィン(トルコ)「神の恵みがありますように」護雅夫訳

 

宮澤賢治「毒もみのすきな署長さん」

 

生死―この世のむこう側

 

ディラン・トマスウェールズ)「あのおだやかな夜におとなしく入ってはいけない」(詩)田代尚路訳

 

ジュール・シュペルヴィエル(フランス)「沖合の少女」福田美雪訳

 

ガブリエル・ガルシア=マルケス(コロンビア)「世界でいちばん美しい溺れびと」山辺弦訳

 

初訳作品をふくむ、12編が新訳です。

どうぞよろしくお願いいたします。

  

 

 

高橋知之『ロシア近代文学の青春――反省と直接性のあいだで』東京大学出版会

高橋知之さんより、ご著書をご恵投いただきました。

高橋さん、出版おめでとうございます。そしてありがとうございました。

このような大著を年少の研究者からいただいてしまい、責任を感じています。

 

高橋知之『ロシア近代文学の青春――反省と直接性のあいだで』東京大学出版会

 

www.utp.or.jp

 

アンソロジーのなかのナボコフ⑭Michael Lipton, R.C.O. Matthews, John M. Rice, Chess Problems: Introduction to an Art, New York: Citadel Press, 1965.

こちらも久しぶりになってしまったシリーズですが、今回はこちら。

Michael Lipton, R.C.O. Matthews, John M. Rice, Chess Problems: Introduction to an Art,  New York: Citadel Press, 1965.

 

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チェスプロブレムの入門書です。

 

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収録されているナボコフのプロブレムは一局。『詩とプロブレム』の第一局に使われているものです。

 

しかし興味深いのはむしろ、Introductionの最後に、

ナボコフの自伝『記憶よ、語れ』よりかなり長い引用がされ、

チェスプロブレムの楽しさを描いた例とされていることでしょう(pp. 23-24)

 

チェスプロブレムのアンソロジーにも収録されている例として

あげておきます。

Nabokov@New York City19, Hotel Chelsea

久々のシリーズ更新になります。今回はホテル・チェルシーです。

住所は222 W 23rd Stです。

 

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 アーサー・C・クラークが『2001年宇宙の旅』を書くなど、

文学者が多く滞在したホテル。

訪れたときには回送中で中には入れませんでしたが、入り口には滞在した文学者の名前を記したプレートが飾ってありました。

 

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しかしこのプレートにはナボコフの名前はなし。

 

www.nyslittree.org

上記のサイトのソースは以下の書籍だそうです。

 

In the 1970s, the hotel continued to make literary news, for it was here that Clifford Irving lived when arrested for writing his fake autobiography of millionaire recluse, Howard Hughes. Other guests may not have been as notorious but still made notable contributions to literature. Arthur C. Clarke wrote the book 2001: A Space Odyssey while in residence, and Nelson Algren, Robert Flaherty, Julius Lester, Valdimir Nabokov, and Yevgen Yevtushenko all stayed at the Chelsea. p. 82

 

 ただ、ナボコフが最後に渡米したのは1964年のことなので、この記述はやや眉唾です。

 

 

書いた書評まとめ(2018年後半)

時事通信社をつうじて配信した書評をまとめておきます。

 

ベン・ブラット『数字が明かす小説の秘密――スティーヴン・キングJ・K・ローリングからナボコフまで』坪野圭介訳、DU BOOKS、2018年。

北日本新聞』二〇一八年八月一二日ほか

(ここの版元は相当いい加減な印象)

 

 

 

橋本陽介『ノーベル文学賞を読む――ガルシア=マルケスからカズオ・イシグロまで』角川選書、二〇一八年。

 『琉球新聞』二〇一八年一〇月一四日ほか

 

 

鴻巣友季子『謎とき「風と共に去りぬ――矛盾と葛藤にみちた世界文学』新潮選書、二〇一八年。

静岡新聞』 二〇一九年五月二六日ほか

 

中村ともえ『谷崎潤一郎論――近代小説の条件』青簡社、2019年

中村ともえさんからご著書をお送りいただきました。

 

中村ともえ『谷崎潤一郎論――近代小説の条件』青簡社、2019年

 

以下に目次をあげさせていただきます。

 

凡例

 

はじめに

 

 

序章 小説に筋をもたらすこと――『刺青』から『蓼喰ふ虫』まで

 

 

第一部 芸術の中の小説

「最も卑しき芸術品は小説なり」

 

第一章 学問としての美学ーー「校友会雑誌」の論争から『金色の死』へ

第二章 新劇の史劇――『信西』上演史考

第三章 小説が劇化されるとき――『お艶殺し』論

第四章 小説家の戯曲――『愛すればこそ』『お国と五平』論

 

 

第二部 近代小説という形式

会話と地の文の関係

 

第一章 『吉野葛』論――紀行の記憶と記憶の紀行

第二章 『春琴抄』論――虚構あるいは小説の生成

第三章 『聞書抄』論――歴史小説の中の虚構

第四章 文章の論じかた――小林秀雄谷崎潤一郎

 

 

第三部 現代口語文の条件

翻訳という方法

 

第一章 谷崎潤一郎と翻訳――『潤一郎源氏物語』まで

第二章 現代語訳の日本語――谷崎潤一郎与謝野晶子の『源氏物語』訳

第三章 何を改めるのか、改めないのか――『潤一郎源氏物語』とその改訳

第四章 <谷崎源氏>と玉上琢彌の敬語論

 

 

第四部 「文学」の時代の小説

「文芸」から「文学」へ

 

第一章 『細雪』論――予感はなぜ外れるのか

第二章 『少将』の読みかた――中村光夫伊藤整谷崎潤一郎

第三章 『夢の浮橋』論――私的文書の小説化

 

おわりに

 

初出一覧

 

あとがき

 

索引

 

  

www.seikansha.co.jp

 中村さん、どうもありがとうございました。

カメル・ダーウド『もうひとつの『異邦人』――ムルソー再捜査』鵜戸聡訳、水声社

また鵜戸さんからいただきました。どうもありがとうございます。

カメル・ダーウド『もうひとつの『異邦人』――ムルソー再捜査』鵜戸聡訳、水声社

 

カミュ『異邦人』を殺されたアラブ人の側から語りなおすという本書は、(すでに刊行以降、日本でも書評がいくつも書かれていますが、)この本が書かれるまでにいたった前史についての訳者あとがきも勉強になります。

 

しかし、対抗言説によって真実の座を奪い返すというわけではない。語り手は殺された兄を語る母の「ことば」に呪縛され、亡き兄の影となりながらも「母のものではないことば」へと逃走する。フィクションの先生を批判する本書は、同時にフィクションの力に、それを作り出すことばの権能に意識的だ。「訳者あとがき」196頁

 

honto.jp

鵜戸さん、どうもありがとうございました。