訳すのは「私」ブログ

書いたもの、訳したもの、いただいたものなど(ときどき記事)

自己翻訳

「書き直し」としての自己翻訳――ノーベル文学賞候補西脇順三郎の「神話」

論文を寄稿しました。 「「書き直し」としての自己翻訳――ノーベル文学賞候補西脇順三郎の「神話」」『アウリオン叢書16 芸術におけるリライト』弘学社、2016年、103-124頁。 昨年、白百合女子大学大学院の「書き直し、リライト」がテーマのオムニバス講義に…

郡虎彦の自己翻訳

白樺派のひとりとして知られる郡虎彦(1890-1924)は英語で劇作をしたことで知られています。 とはいえ、郡自体がもうほとんど忘れられた存在ですが。 この先駆的なバイリンガル作家の自己翻訳について調べてみました。 里見紝・志賀直哉・武者小路実篤編『…

ストリンドベリの自己翻訳

ヨハン・アウグスト・ストリンドベリ(1849‐1912)の自己翻訳について、パスカル・カザノヴァの『世界文学空間――文学資本と文学革命』(岩切正一郎訳、藤原書店)にあったのでメモ。 初期の戯曲や小説集がいち早くフランス語に翻訳されたにもかかわらず、そ…

清涼院流水の自己翻訳

以下メモ。 2013年1月7日の産経新聞の記事「英語圏へ ロマンでなく必要条件」によると、JDCシリーズなどで著名な作家の清涼院流水が日本の作家の英訳プロジェクトにのりだし、すでに自作『キング・イン・ザ・ミラー』を英訳し販売しているとのこと。 ■自分の…

自己翻訳者の不可視性――その多様な問題

書いた論文が掲載されました。 「自己翻訳者の不可視性――その多様な問題」『通訳翻訳研究』12号、2012年、155−174頁。 内容は、20世紀の作家を何人かとりあげ、その自己翻訳の実態についておもに外面的に論じたものになっています。このブログの過去記事の内…

[メモ]ナボコフの詩の自己翻訳

少し前にちょっとおもしろい記事を教えてもらったのでメモ。Open Culture, June 26th, 2012 Vladimir Nabokov Recites His Early Poem of Transition, ‘To My Youth’ナボコフの詩の朗読のテープがみつかった、という内容です。 この朗読はBBCのために1954年4…

野口米次郎の場合(その1)

前々回、タゴールについて触れましたが、そのタゴールとも交流があり、アメリカで英語詩人「ヨネ・ノグチ」として活動し、戦中は愛国的な詩を書いたことで知られる「二重国籍者」こと野口米次郎について、最近出た大部のモノグラフを読んでみました。「二重…

メモ:タゴールの場合

ラビンドラナート・タゴール(1861-1941)はベンガル語詩人でしたが、みずから英訳した詩集『ギタンジャリ』をイェーツに高く評価され、ノーベル賞を贈られました(1913)。最近出版された『ギタンジャリ』は英語との対訳詩集。タゴール詩集 ギタンジャリ―歌…

メモ:長谷川四郎と翻訳

村上春樹『若い読者のための短篇小説案内』文藝春秋より 若い読者のための短編小説案内作者: 村上春樹出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 1997/10メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 12回この商品を含むブログ (15件) を見る この人のちょっと突き放したよ…

チェスワフ・ミウォシュの場合

昨年は20世紀ポーランドを代表する詩人 ノーベル文学賞受賞者のチェスワフ・ミウォシュの生誕100年でした。チェスワフ・ミウォシュ詩集作者: チェスワフミウォシュ,関口時正,沼野充義,Czeslawa Milosza出版社/メーカー: 成文社発売日: 2011/12/01メディア: …

「失敗」した自己翻訳:フェルナンド・ペソアの場合

20世紀ポルトガルを代表する詩人、フェルナンド・ペソア(1888〜1935)は、英仏葡のトリリンガル詩人でした。また、彼が商業翻訳で生計をたてていた、という事実もあれば、当然ながら自己翻訳もしていたのではないか、と思いいたるのは当然です。 ペソアがカ…

メモ:自動翻訳と自己翻訳

前に書いたエントリで触れたナンシー・ヒューストンについていくつか日本語文献を見つけたのでメモ。横川晶子「「バイリンガル作家」ナンシー・ヒューストン」 英語で最初に書かれた作品の自己翻訳が賞を受賞したことに巻き起こった反発の話。 (これはカナ…

コシンスキの場合

『ペインテッド・バード』で有名なイェジー・コシンスキ(1933〜1991)は、晩年スキャンダルに見舞われた作家でもあります。そのスキャンダルの内容とは「コシンスキの書いたものはみな、もともとはポーランド語で書かれたもので、秘密裏に訳者を雇って英訳…

編集文献学と自己翻訳

人文学と電子編集―デジタル・アーカイヴの理論と実践作者: ルー・バーナード,キャサリン・オブライエン・オキーフ,ジョン・アンスワース,明星聖子,神崎正英出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会発売日: 2011/08/30メディア: 単行本 クリック: 44回この商品を…

リシャール・コラスの場合: 「自ら日本語で執筆」???

自己翻訳かどうかわかりませんが、ヘンテコなものを見つけたのでメモ。シャネルの日本法人社長リシャール・コラス(1953〜)が最近出版した小説『紗綾―SAYA』の説明にこう書いてありました。 フランスで、文学賞「みんなのための文化図書館賞」を受賞した『S…

カレン・ブリクセンの場合

カレン・ブリクセン(1885-1962)もベケットやナボコフと並んで有名なバイリンガル・自己翻訳作家です。 彼女の場合、創作は基本的に英語ではじめに書き、その後デンマーク語に自分で翻訳するという方向でおこなわれました*1。外国語→母語の流れですね。 で…

アンドレイ・マキーヌの場合:アリバイとしての自己翻訳

アンドレイ・マキーヌ(1957〜)はロシア生まれのフランス語作家で、はじめ亡命作家イヴァン・ブーニンの研究などをしていましたが、1987年に渡仏して後フランス語での創作を始めます。 1995年の『フランスの遺言書』でメディシス賞・ゴンクール賞を同時受賞…

メモ:ボルヘスの自己翻訳2

前のエントリの続き。1968年から71年までブエノスアイレスでボルヘスと共同作業した英訳者ノーマン・トマス・ディ=ジョバンニの回想・インタヴューを読む機会がありました。Cardinal Points of Borges作者: Lowell Dunham,Ivar Ivask出版社/メーカー: Unive…

メモ:ツヴェターエワの自己翻訳

ナボコフ以外にもロシア革命直後の亡命者たち、いわゆる「第一の波」の世代の中には外国語での創作や、自己翻訳を試みた作家が何人かいました。マンデリシュターム、パステルナーク、アフマートワと並んで、二〇世紀ロシア語詩の到達点とされるマリーナ・ツ…

メモ:ボルヘスの自己翻訳

ジョージ・スタイナーが「脱領域の知性」としてあげた作家のうち、ボルヘスの自己翻訳についてはいまいちはっきりしたことがつかめず、『訳すのは「私」』では触れませんでした。ボルヘスのスペイン語→英語の翻訳にかんしては、英訳者ノーマン・トマス・ディ…

田原の場合

バイリンガル詩人の田原(ティエン・ユアン、1965〜)氏の講演会に行ってきました。以下メモ。・北京語→日本語、日本語→北京語のどちらの自己翻訳もする。 ・北京語→日本語の詩とはじめから日本語で書かれた詩を比べると、後者の方が「日本語に近い」感覚が…

デスエノス『低開発の記憶』

エドムンド・デスエノス『低開発の記憶』(野谷文昭訳、白水社)をご恵贈いただきました。ありがとうございます。低開発の記憶作者: エドムンドデスノエス,野谷文昭出版社/メーカー: 白水社発売日: 2011/05/24メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含む…

『書きなおすナボコフ、読みなおすナボコフ』

書きなおすナボコフ、読みなおすナボコフ Revising Nabokov Revising作者: 若島正,沼野充義出版社/メーカー: 研究社発売日: 2011/05/27メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 22回この商品を含むブログ (7件) を見る若島正・沼野充義編『書きなおすナボコフ、…

西脇順三郎の自己翻訳(2)

西脇順三郎についてちょっとだけ調べてみると、いくつかその自己翻訳についてわかったことがあったのでメモ。 1、西脇はイギリスでの留学生活を終えて帰国する際に、フランス語の詩集を出せないか、とパリに立ち寄り、フランス語詩の原稿を持って出版社巡り…

魯迅の自己翻訳

藤井省三『魯迅−−東アジアを生きる文学』(岩波新書)をなんとはなしに読んでいたところ、魯迅も自己翻訳をしていたことを教えられました。 北京の邦字週刊誌『北京週報』(1923年1月の新年特別号に「魯迅作同人訳」として)に魯迅自身による自作の童話「兎と…

西脇順三郎の自己翻訳(1)

西脇順三郎(1894〜1982)が英語などの外国語から詩作に入り、 ジョイスなどの詩を多く翻訳したモダニズム詩人であったことはよく知られています。他方で、彼が一部の自作詩を自分で訳したことがある「自己翻訳」の詩人だったことは あまり知られていません…

村上春樹の「自己重訳」

「象の消滅」 短篇選集 1980-1991作者: 村上春樹出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/03/31メディア: 単行本購入: 11人 クリック: 231回この商品を含むブログ (251件) を見る村上春樹はどう誤訳されているか―村上春樹を英語で読む (MURAKAMI Haruki TUDY BO…

移民作家の自己翻訳

Moment of Silence作者: Toma Longinovic出版社/メーカー: Burning Books発売日: 1990/03/01メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る今、移民作家が自作を受け入れ先の国の言葉で出版することは(特にアメリカなどでは)珍しくなくなって…

ナンシー・ヒューストンの場合

このブログ、ネタはかなりあるんですよね。書けるかどうかはともかく。今日はナンシー・ヒューストンの場合。ナンシー・ヒューストンはカナダの英仏バイリンガル作家。あのツヴェタン・トドロフの奥さんでもあるようです。英語が母語ですが、仏語で創作をは…

ジョイスが訳すジョイス

花粉がひどいですね。いつも鼻炎気味なのでよけい……。『訳すのは「私」』ではとりあげなかったのですが、自己翻訳をした作家の中でももっとも大物のひとりがジェイムズ・ジョイスです。彼は自分の実験作『フィネガンズ・ウェイク』の一部、「アナ・リヴィア…

エクソフォニーとオムニフォン

このブログではネタを備忘録的に放り出しておくだけで、特に掘り下げることはしないんですよ(言い訳)。今日読んだ管啓次觔の『本は読めないものだから心配するな』(左右社、91頁)によれば、 「エクソフォニー」とは外の言語で書くという実践、「オムニフ…

多和田葉子の場合(1)

もう三月になってしまいました。二月は短い……。前々回のエントリでは共訳者について触れましたが、 作者=訳者が自己翻訳研究の一番のソースであることはまちがいありません。 自己翻訳研究はどうしても作者=訳者という存在に束縛される面があります (この…

レヴィンの翻訳論

The Subversive Scribe: Translating Latin American Fiction (Dalkey Archive Scholarly)作者: Suzanne Jill Levine出版社/メーカー: Dalkey Archive Pr発売日: 2009/10/06メディア: ペーパーバック クリック: 2回この商品を含むブログ (1件) を見る「作者…

サミュエル・ベケットの自己翻訳研究

日本語で読める自己翻訳研究を(『訳すのは「私」』でとりあげたもの以外で)いくつか紹介しておきます(自分のメモ替わりもかねて)。 英語・フランス語というメジャー言語ふたつで執筆したこともあり、やはりベケット関連の論文・文章が多いです。 たとえ…