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訳すのは「私」ブログ

書いたもの、訳したもの、いただいたものなど(ときどき記事)

Nabokov@Cambridge1: MCZ

まえがきを未読の方はこちらをご覧ください。


ナボコフは生物学の学位を持っていたわけではないですが、鱗翅類、とりわけシジミチョウ類については専門的な知識を持っていました。


ナボコフはハーヴァード大学比較動物学博物館(MCZ)に1941年10月から最初はボランティアとして、同館の蝶のコレクションの分類・選別の仕事に携わるようになります。鱗翅学者としての活動の成果として、数本の論文を残しています。ナボコフの蝶に関する著作を網羅的に収拾した文献も出版されています。

Nabokov's Butterflies: Unpublished and Uncollected Writings

Nabokov's Butterflies: Unpublished and Uncollected Writings


最初のうちは無給でしたが、そのうちに能力が認められ、年俸1000ドルの非常勤研究員として正式に雇用されます(のちに少しずつ給料は上がったようです)。


ちなみにMCZはハーヴァード大学自然史博物館Harvard Museum of Natural Historyと同じ建物にあります。この博物館は比較動物学をふくむ四つの博物館からなる大きな博物館で、一般向けの展示もおこなっています。大学の所有する博物館としては異例の充実ぶりと言ってよいでしょう。

中の展示はこんな感じです。展示ごとにテーマがはっきりうちだされた内容です。

蝶の展示もありました。

MCZは研究機関で、研究調査のほか、大学院生の教育もおこなっています。クロノサウルスの骨格標本のマークがMCZの入り口の目印。


現キュレターのRodney Eastwoodさんにナボコフが勤務していたという402号室の中を見せてもらいました。402号室はずっと蝶の標本の分類研究に使われているようで、蝶や蛾の標本を納めたキャビネットがびっしり詰まっています。同博物館の標本はアメリカのものとしてはかなり古くまでさかのぼることができるコレクションなのだとか。


この部屋で作業するナボコフを撮影した有名な写真が残っています。


ブライアン・ボイドはこの仕事場を伝記の中でこう記述しています。

From October 1941 he would tedious subway-and-train or bus-and streetcar journey at least once a week to the M. C. Z. There, in room 402, with its great cabinets of sliding trays housing rows of neatly pinned and labeled butterflies, moths, and skippers, he was installed at a long bench at the east-facing windows. Within a year that bench become almost his permanent daytime home. AY 38


著作権の都合により内部の写真を掲載することができないのですが、半世紀以上前の仕事場が基本的にはそのまま残っていることに驚きました。ただし、現在の作業はナボコフの時代とは違い、電子顕微鏡などのハイテクノロジーを使っておこなわれているようです。


なお現在ナボコフの残した数千の標本の写真を解析し、ナボコフがその標本をいつ・どこで採集したのかつきとめるプロジェクトをおこなっているそうです(近年中に博物館のHPで公開予定だとか)。それがわかればナボコフが蝶によって作品のインスピレーションをいかに受けたのかが実証的にわかるとのこと。資金が投入されていて相当すごいが、だったらナボコフが読んだ本とかを調べた方がいいような気もする(笑)。うーん。


ちなみにEastwood氏によると毎月ひっきりなしに世界各地からナボコフ関係の取材をうけるとのこと。研究者だけでなくマスコミやアーティストなどさまざまだとか。最近、鱗翅学者としてのナボコフの先見性が再評価されたことも大きいかも知れませんね(ちなみに再評価のきっかけとなった論文を執筆したNaomi Pierce博士は同博物館のキュレーターで、日系の方だそうです)。


なお、ここの図書室にはナボコフの書簡も一部収蔵されています。