訳すのは「私」ブログ

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自己翻訳者の不可視性――その多様な問題(2012)

以前、書いた論文がJAITSのサイトからフリーでダウンロードできるようになりました。


前に書いた論文の紹介はこちら。
「自己翻訳者の不可視性――その多様な問題」『通訳翻訳研究』12号、2012年、155−174頁。
http://d.hatena.ne.jp/yakusunohawatashi/20121225/1356403488



ごく基本的なことを説明しておくと、
ほとんどの学者は自分の研究成果を広く知ってほしいと思っています。
研究とはすべからく公益性を持つべし、という立派な理由以前に、
読んでもらえなければその研究は存在しないも同然だからです。


また、論文を書いて出版することに、
投稿料(人文系の場合課されることは少ないですが)、
学会の年会費がかかることがあっても、
原稿料がもらえることは(一部例外を除いて)ありません。



では、勝手に公布、頒布していいのか、というと問題があります。
論文はパブリッシュされるとほとんどの場合、
著作権を学会誌を発行する学会に譲渡してしまうことになるからです。
(最近では電子出版の権利についても承諾書を書かされることもあります)


これは、学会側からすれば、学会誌のコンテンツは
そのために年会費を払ってくれている会員に配布する「商品」
(実際に学会誌を一般販売している学会もある)だからです。
また、その「品質管理」には、専門家による査読や、
編集委員による編集などの少なくないコスト(ほとんど無償労働です)が
かかっているので、それはある意味当然です。


平たく言うと、投稿する側は学会誌に投稿することによって、
論文の質を向上させなにがしかの権威のもとに自説を公開するチャンスをえますが、
その代わりに権利に制限も負うというギブアンドテイクな関係があるわけです。


そのため、(個人的に抜き刷り・コピーを送ることはあっても)個人サイトで
無制限に閲覧できるようにするのはなにかと問題があるのです。


ですので、学会や研究機関がアーカイヴやレポジトリで公開するまで(だいたい次の号がでるまで〜数年)、執筆者は広く読んでもらいたくても、動きづらいという事情があるのです。