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訳すのは「私」ブログ

書いたもの、訳したもの、いただいたものなど(ときどき記事)

ナボコフの値段① 書簡編

今回は文字通りナボコフの「値段」の話です。

 

ナボコフの場合、原稿はまれですが、サイン本、手紙なんかは

現在でも市場にでることがあります。

 

そもそもナボコフは「高く売られる」作家でした。

 

サイモン・ガーフィールド『手紙 その消えゆく世界をたどる旅』(杉田七重訳、柏書房)によれば、

 

ところが一九九一年、彼〔グレン・ホロヴィッツ〕はヴェラ・ナボコフとドミトリー・ナボコフのふたりからスイスへ「召喚」される。ウラジーミルの文書をどうしていいかわからないふたりが、自分たちの手には負えない問題に手を貸して欲しいと彼を頼ったのだ。「モントルーとニューヨークを行ったり来たりして、六か月から九か月にわたる熾烈な交渉を経たのち、すべてひっくるめて、百五十万ドルで購入するようニューヨーク公図書館を説得した」と彼は言う。「それはもう画期的な取り引きで、自分でそう思うだけじゃなく、見ているみんながそう言った。この仕事によって、切羽詰まった利害関係を持つ様々な顧客を扱う交渉人のスキルを認められたばかりじゃなく、ひとつの文書コレクションを、当時史上最高と見られる高額で売ることのできる人間としても認められたわけなんだ。(353頁)

 

 

 

 

このとき売却されたコレクションがニューヨーク公図書館のバーグコレクションに収蔵されているVladimir Nabokov Papersの幹となっているはずです。

 

グレン・ホロヴィッツについてはこちらの記事も(英文)ありますが、100万ドルを超える取引というのは文学業界では初のことだったようです。

 

ただ、これは書簡だけでなく、未刊行の原稿や日記など膨大な資料もふくめての価格なので、手紙一通がいくら、というのはわかりません。

 

1994年のサザビーズのカタログ

 English Literature and History, Private Press and Illustrated Books and Related Drawings: Including Papers of the First Duke of Ormonde, Lord Lieutenant of Ireland, Books from the Library of Stanley Baldwin, Books and Papers of the Spy Kim Philby, Original Set Designs for Films by Charles Chaplin, Manuscripts of Literary and Religious Works by Lancelot Andrewes, Saint Robert Southwell, S.J. Robert Southey, Francis Thompson, Oscar Wilde, Rudyard Kipling and Others, a Fine Letter by Elizabeth I to Charles IX about War with France, Fine Series of Letters by Christina Rossetti, Roger Casement, G.B. Shaw, Graham Greene, Vladimir Nabokov and Others, Inscribed Presentation Copies of Books by James Joyce, Oscar Wilde, Graham Greene, Winston Churchill and Others

 (クッソ長い書名ですが)にはロットナンバー205番にNabokov Papers of Andrew Fieldが出品されています。

アンドルー・フィールドはナボコフのお墨付きをえて作家の生前に伝記を執筆していましたが、のちに決裂した人物です。

おそらく、ホロヴィッツの取引が話題になったので、自分の資料も出品したのでしょう。

内容は

1)ナボコフがサインした23通のフィールド宛書簡

2)ナボコフのフィールドによる伝記の訂正

3)ナボコフがフィールドによる伝記のために提供した資料

 

 

などです。1)のなかには、当然ながら『ナボコフ書簡集』に入っていない手紙も多数です。

 

 

(下巻はまだ新品がある?みたいですね)

この価格が8000-12000ドルとカタログにはでています(85頁)。

 

(ちなみにこれを誰が落札したのか謎で、学者のあいだでもとりざたされましたが、バーグ・コレクションのfinding aidを見ると、いくつか類似の項目がありますので、おそらくNYPLが購入して、統合したのかな、と。)

 

ナボコフの書簡は単発でもオークションにかけられることはあります。

いくつかあるオークション・サイトをまわってみましょう。(それぞれリンク先で現物画像が見れます。いまは多くのサイトで手紙が可読な状態で画像掲載されているので、研究者にはありがたいです)

 

Heritage Auctionというサイトに残っているのは

#36335としてVladimir Nabokov. Typed Letter Signed. [N.p.], December 11, 1958.

が掲載されています。

 

エージェントのエルガに送った手紙で、『ロリータ』出版後のオリンピア・プレスのジロディアスとのごたごたについてのものですが、落札価格は手数料込みで1500ドルだったようです(2013年4月10日に終了済み)。

 

ほかにもBonhamsというサイトでは、

2015年12月9日のオークションでナボコフが妹の職がないか、

議会図書館に出した1949年1月14日の手紙が出品されています(lot128)。

これは2500ドルで落札されたようです。

(ただこれは別オークションのlot1039としても登録されており、価格設定6000-8000が強気すぎて売れなかったため、別のオークションに流れた?のでしょうか)

 

このサイトだと、手紙ついてはほかにも、ナボコフから詩人ハーヴェイ・ブレイットにあてたものなどが掲載されており、それぞれ732ドル、1586ドルで2010年6月23日のオークションで落札されています。

 

クリスティーズにはほかにも、(画像ないですが)グレーブ・ストゥルーベあての手紙が、1996年5月22日に748ドルで売られたという記録があります

 

ほかにも落札価格がわからないものが別のサイトにもいくつか掲載されています。

「なぜこの手紙よりあっちの手紙のほうが高いのか?」と正直、価格の理由がよくわからないものも多いですが(時期、分量、内容、typed or not、signed or notとかが微妙に影響)、手紙だと一通1000~3000ドルぐらいで買えるのかな、と。

(この項、不定期でつづく)