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訳すのは「私」ブログ

書いたもの、訳したもの、いただいたものなど(ときどき記事)

ナボコフの値段④ レア本編②

ナボコフ 値段

前回ナボコフのinscribed copyの値段の話――グレアム・グリーンあての『ロリータ』の価格――をしました。

 

ナボコフのinscribed copyの価格を語る上で欠かせないのが、1999年にグレン・ホロヴィッツ・ブックセラーが頒布したカタログ『ヴェラの蝶』です。

 

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1992年、グレン・ホロヴィッツ・ブックセラーが、ナボコフの原稿や書簡をニューヨーク公図書館に150万ドルで売却した話はすでに書きましたが、それで信頼をかちえたのでしょう。ナボコフのひとり息子、ドミトリイ・ナボコフは、父ウラジーミルが母ヴェラに送った献辞付きの本を一斉に売りに出すことにしたのです。

 

(ちなみに母親は1991年にすでに死去していましたが、両親の形見をかんたんに手放すことに抵抗はなかったんでしょうかね。このあたりにドミトリイの性格、ナボコフの遺産の扱い方の方針がみれますが、またいずれ。)

 

このカタログ、ISBNがついていますが、一般に流通したものではないよう。限定2000部が刷られたようです(「限定」、といっても、私がだしたどの本よりも多い刷り部数ですが)。カタログ以外にも、ナボコフ研究の大家が原稿を寄せていたり、ジェイ・グールドが原稿を書いていたり、ここでしか読めない未刊行版『ロリータ』脚本からの抜粋が載っていたりするなど、研究者必見の内容になっています。

 

 (ちなみにグールドのエッセイは↑に収録されました)

 

 さて、「値段」の話です。

 

このカタログでは妻への献辞付きのナボコフの本(一部そうでないのもあり)が135冊、売りに出されています。価格は500ドルから125000ドルまで幅があります。

 

このうち、最高価格の125000ドルの値がつけられたのは、1955年の 『ロリータ』初版の第二刷りで、ナボコフの書きこみがびっしりされたものです。

 

そして、それと並んで125000ドルの値を書店がつけたのが、意外なことに、ナボコフが自分の鱗翅類の論文12本を雑誌から切りとって、自分でまとめたものです。最後に「ヴェラへ」と書かれているそうで、いくつかの論文には、単行本『強硬な意見』収録用に手直ししたあとがあります。

 

これが『ロリータ』初版作者手直し本と同じ価値、というのは驚きですが、世界に一冊しかないという点では妥当なんですかね(ちなみに、この論文も『ナボコフの塊』に入っています)。

 

 

これは1999年の時点でのカタログですが、ほかのカタログとくらべるとまた少し興味深いこともわかってきます。(つづく)