本日発売の『すばる』12月号に、ナボコフ「ヴェラへの手紙」を訳出しております。
ウラジーミル・ナボコフ「ヴェラへの手紙」『すばる』2017年12月号、224―244頁。
『ヴェラへの手紙』は2014年に刊行されたナボコフが妻ヴェラにあてた書簡集です。
原書は800頁!を超える大冊ですが、今回は『すばる』掲載にあたって9通の手紙をセレクトしました。訳出したのは以下の9通です。
・1923年11月8日
・1924年1月17日
・1926年6月7日
・1926年6月8日
・1926年6月13日
・1926年6月15日
・1926年6月16日
・1926年7月6日
・1926年7月12日
内容を一部チラ見せ。なお、訳出にあたっては原典のロシア語版を使用しております。
ぼくの幸福、ぼくの黄金、信じがたい幸福よ! ぼくが全部きみのものだということを――ぼくの記憶、詩、高揚、心の中に湧きあがるつむじ風もみな――どう説明したらいいのだろう? きみがその言葉をどう発音するか聞かずには一語も書くことができないし、今まで生きてきた中で経験したものごとのどんな細部も――ぼくたちが分かち合わなかったものであれば――(こんなにも強い!)切なさを覚えずには思い出せないことをどう説明しようか? きみと分かち合わなかったものたちは、どうにも個人的で、いわく言い難いものと化してしまい、たんに道の曲がり角で見た日没だかなんだかも、そうではないもののようになってしまうんだ。ぼくの幸福よ、わかってもらえるだろうか?
――1923年11月8日
ベルリンを夢みるなんて思いもしなかった――そう、地上の楽園みたいに(天空の楽園なんてたぶん退屈さ――熾天使【セラフィム】の羽がわんさか舞っていて、禁煙だってさ。でもときどき、天使たち自身が袖に隠して煙草を吸う――大天使がとおると煙草を投げすてる。それが流れ星なんだ)。月に一度ぐらい、お茶を飲みにおいでよ。いつかぼくの稼ぎが尽きたら、きみと一緒にアメリカに出稼ぎにいこう……。
――1924年1月17日
夕食まで新聞を読み(ママから手紙をもらった。暮らし向きは厳しいが、大丈夫なようだ)、それから肉の切れ端をそえたジャガイモとスイスチーズをたっぷり食べた。九時ごろきみへの手紙を書いた――それからメモ帳に手を伸ばしたときにふと、不在中に手紙がきていたことに気づいた――どういうわけか気づかなかったんだ。愛しいきみよ。なんておサルさんな手紙なんだい……。
――1926年6月7日
九通と言えども、解説合わせ原稿用紙換算で60枚近くもページをいただいております。
なお、この『ヴェラへの手紙』は今のところ邦訳出版される予定がありませんので、こちら『すばる』掲載版が最初で最後の翻訳の可能性もあります。
そういった意味でも貴重ですので、入手不能になる前にぜひご覧ください。