作家の円城塔氏による『書きなおすナボコフ、読みなおすナボコフ』の書評が、7月8日の『週刊 読書人』に掲載されていました。
『書きなおす〜』に対するもの、というよりは昨今の日本におけるナボコフ関連書籍ラッシュについてのもの、という感じですね。ありがとうございます。
円城氏は最近ナボコフへの傾倒を明らかにしており、最新作の「道化師の蝶」(『群像』2011年7月号)でもナボコフが一種のモチーフになっていました。
そのことについては『群像』8月号の「創作合評」で沼野充義氏が紹介しているのですが、ここでは一種の返礼として、より詳しいネタ元を特定してみたいと思います。
表題にもなっている「道化師の蝶」とは作中に登場する架空の蝶です。冒頭で「新種」「アルレキヌス・アルレキヌス」として登場します([めんどいので]蝶の描写だけ書き抜きます)。
「新種の、架空の新種の蝶です。雌ですな」
[中略]蝶の胴は四色の帯に取り巻かれており、上から青、赤、紫、黒。羽には四角い格子が黒い線で切られており、枠内は白、赤、青、緑、黄、橙、紫色できままに埋められている。
[中略]
「アルレキヌス・アルレキヌス」
[中略]
「学名ですよ」
47頁
小説の内容の詳しい説明はここではしませんが、物語の結末ちかくになってナボコフとおぼしき老人が登場して、「道化師の蝶」の身元を明らかにします。
得意の絶頂にあるエイブラムス氏の前の机へ、老人は一冊の本を広げる。ヴェラに、と宛名の記された蝶のスケッチは既に、アルレキヌス・アルレキヌスの名前が記されており、雄の表記が添えられている。
74頁
じつは、実際にナボコフのスケッチが描かれたこの本は実在します。この記述の元になった「蝶」がこちら。
これはナボコフが最後の長編『道化師をごらん!』を妻ヴェラにおくった際に、献辞のページに描き添えた架空の蝶です(ナボコフはよくこういう遊びをしました)。
画像と小説の記述を比べると、まったく同じであることがわかるのではないでしょうか。もちろん、これは「道化師の蝶」を読み解く上でのピースのひとつに過ぎませんけれど、なかなかおもしろいしかけだと思います。