訳すのは「私」ブログ

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北代書評

日本通訳翻訳学会の電子ジャーナル『翻訳研究への招待』6号に『ナボコフ 訳すのは「私」』の書評が掲載されていました。評者は翻訳家として長いキャリアのある北代美和子氏。

拙著に対する学術系の書評は初めてですね。しかも文学系ではなく翻訳研究系の方から批判していただいてありがたかったです。本書のひとつの目的を達したと思います。感謝いたします。

内容も踏み込んだものになっていて、関連文献が具体的に示されながら、評者独自の考察が加えられており、勉強になります(不勉強ながらTim Parks の Translating Styleは未読だったので目を通してみたいです)。

最後、翻訳家らしく日本語訳と文学を語ることの問題が問われています。
ところで、(問いを投げ返すわけではないですが)翻訳研究と文学研究は一見隣接しているように見えて、内実はかなり異なっているのではないでしょうか。

言語学的な厳密な分析手法に多くを負う翻訳論は文学研究者にしてみれば退屈、作品の選定からして直感からスタートしがちな文学研究は翻訳研究者にしてみれば曖昧・恣意的ということになりかねず、お互いがお互いの成果を援用しづらい。なかなか有意義な交流が難しい。

その点で、創作と翻訳のほぼ中間にある「自己翻訳」は両者をマッチングさせるに適した領域のひとつだと思いますけれど。