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瞳孔の中 クルジジャノフスキイ作品集

共訳した本が刊行されました。

シギズムンド・クルジジャノフスキイ(上田洋子、秋草俊一郎訳)
『瞳孔の中 クルジジャノフスキイ作品集』松籟社


瞳孔の中 クルジジャノフスキイ作品集

瞳孔の中 クルジジャノフスキイ作品集

内容紹介
日常的現実のひとこまから奇想の世界が現出する。リアルかつ奇妙なイメージに快く翻弄されるうち、存在論的・認識論的な問題にまで思考は駆動されるだろう。1910年代後半から1940年代まで活動し、200以上の作品を残しながら、同時代にはほとんど書籍を刊行することができず、忘れ去られた存在であったシギズムンド・クルジジャノフスキイ。ペレストロイカ期に「再発見」され、国際的な評価が高まる異能の作家の短篇集。

著者について
ウクライナポーランド貴族の家庭に生まれる。キエフ大学法学部に在学中から詩やエッセーを発表。大学卒業後は弁護士助手として働くが、1917年のロシア革命で裁判制度が変わったあおりをうけて失業。以後、音楽院・演劇スタジオなどで講師として文学・演劇・音楽などの歴史と理論を教えて生活の糧を得た。 1919年、短篇「ヤコービと《あたかも(ヤーコブィ)》」を発表して作家デビュー。活動の舞台をキエフから新首都モスクワへ移し、小説・エッセー・評論のみならず、舞台・映画シナリオ等の多岐のジャンルに渡って創作を展開。200を越える作品を残したが、生前にはそれらが書籍にまとめられることはなく、以後の文学史でも忘れ去られた存在になってしまった。ペレストロイカ期に「再発見」され、五巻本の著作集が刊行された。他言語への翻訳も進み、近年、国際的評価が急速に高まっている。


「シギズムンド・クルジジャノフスキイ」という舌がもつれそうな名前を聞いたことのある日本の読者はまずいないでしょう。


それもそのはず、一度は「忘れられた」作家であり、本国ロシアでもつい最近全五巻の作品集が完結したばかりです。


日本で初めての紹介になるこの作品集では、共訳者、世界でもまだ数少ないクルジジャノフスキイ研究者である上田洋子さんによる詳しい解説がついています。必読です。


私は五本の短編のうち、「クヴァドラトゥリン」・「支線」の二本を担当しております。

「クヴァドラトゥリン」は狭い部屋を累乗に広くする魔法のような薬を手に入れた男の物語。どことなくドラえもんの「バイバイン」を思いおこさせるお話。


「支線」は列車に乗っているうちにいつの間にか「支線」にそれ、夢の国、眠りの国にたどりついてしまう男の物語。クルジジャノフスキイ特有の濃密な幻想性が楽しめます。


(今回、すぐれた作家の日本での紹介に参加できたということは、個人的にうれしかったです。)