訳すのは「私」ブログ

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ストリンドベリの自己翻訳

ヨハン・アウグスト・ストリンドベリ(1849‐1912)の自己翻訳について、パスカル・カザノヴァの『世界文学空間――文学資本と文学革命』(岩切正一郎訳、藤原書店)にあったのでメモ。


初期の戯曲や小説集がいち早くフランス語に翻訳されたにもかかわらず、それらはパリでまったく反響を呼ばなかった。そのために彼は自分自身で自作の『父』を翻訳しようとした。〔中略〕はじめのうち、(多くの場合そうであることが証明できるのであるが)、移行を試みるときの唯一の打開策は自己翻訳である。ついで、ストリンドベリは翻訳家ジョルジュ・ロワゾと出会い、彼と共同で仕事を進めることになる。作家も加わっての翻訳が第二段階で、そこでは作家が、自分のテクストの移し替えに非常に熱意をみせ、書き直しを試みる。〔中略〕最後に、おそらく必然的に翻訳者が介在することに気詰まりを感じたためもあって、ストリンドベリはみずからフランス語で直接書こうと決心する。(181頁)


カザノヴァによれば、ストリンドベリは「普遍的な言語がない」ゆえにフランス(語)での成功を望み、一度成功して世界的な作家になったあとは翻訳に興味をなくし、またもとのマイナー言語に引きこもってしまったたとのこと。


この次の例としてナボコフがでてくるのですが、ナボコフの場合だととくにフランスでの成功に執着していないですし、そもそもロシア語を小文学、小言語として処理するのは無理だし……例としては失敗していると思いました。


それはそうとしてカザノヴァの本自体はおもしろい本で、世界文学研究では一種の古典ですが。

世界文学空間―文学資本と文学革命

世界文学空間―文学資本と文学革命

The World Republic of Letters (Convergences: Inventories of the Present)

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