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エミリー・アプター『翻訳地帯――新しい人文学の批評パラダイムにむけて』書評まとめ

このエントリにエミリー・アプター『翻訳地帯――新しい人文学の批評パラダイムにむけて』の書評をまとめておきます。

書評をくださったみなさま、どうもありがとうございました。

 

鴻巣友季子さん『毎日新聞』2018年5月13日

 

今週の本棚

鴻巣友季子・評 『翻訳地帯 新しい人文学の批評パラダイムにむけて』=エミリー・アプター著

mainichi.jp

戸塚学先生『世界文学』128号、2018年、80-82頁。

 本書が訳出されたことで、翻訳論を導入した最良の人文書の一つが手軽に読めるようになったことの意義は大きい。

 

片山耕二郎さん『れにくさ』9号、2019年、199―201頁。

 本書の価値はこの本質性を逆転したこと、つまり翻訳が社会・地域的な利害から離れることで純粋に研究できるのではなく、むしろそうした環境、すなわち言語が接触・対立する「地帯」が翻訳の意義・価値を規定する以上、積極的に関わることが本質的な翻訳研究だという、コペルニクス的転回にある。

 

 

 

*随時追加します。

 

 

ナボコフのアーカイヴを訪ねて⑰ ハーヴァード大学ホートン図書館

長らくハーヴァードのアーカイヴを観てきましたが、最後はやっぱりハーヴァード大学のホートン図書館です。

 

ハーヴァードの図書館については以前ケンブリッジ・ボストンの「ナボコフ・ツアー」をしたときに書きました。

yakusunohawatashi.hatenablog.com

70以上ある図書館のなかで、作家の原稿や手紙を一手にあつめているのが、このホートン図書館です。

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この図書館にも膨大な資料があります(一般的にはキーツ、ディッキンソンのコレクションで有名)。

 

入って左手の展示室には数か月後にかわるコレクションの展示があり、週に一度か二度、司書の方がコレクションを案内してくれるツアーがありますし、ときどき朝ごはんをふるまってくれたりします(!)。

 

ナボコフ関係に限っても非常に充実しており、

・出版社ニューディレクションズとのやりとりやゲラ、

ウィリアム・ジェイムズの息子ビリーとのやりとり、

比較文学者ハリー・レヴィンとのやりとり、

・その他旧蔵書

など膨大な資料を閲覧することができます(撮影も可能)。

 

今回でアーカイヴシリーズはいったん終わりますが、

また別な場所に行くことがあれば、更新したいと思います。

 

資料の充実度 ★★★★

使いやすさ  ★★★★★

観光地度 ★★★★

大浦康介編『日本の文学理論――アンソロジー』(水声社)

中村ともえさんからご恵投賜りました。ありがとうございます。

 

大浦康介編『日本の文学理論――アンソロジー』(水声社

 

序 大浦康介著

概説 大浦康介著 中村ともえ著. 

小説の主脳は人情なり-『小説神髄』より-坪内逍遥著. 

直ぐ人生の隣りにゐる-「散文芸術の位置」より-廣津和郎著. 

私小説しか信用が置けない-「「私」小説と「心境」小説」より-久米正雄著.

内なる声と仮装-『小説の方法』より-伊藤整著. 

炭取が廻る-「小説とは何か」より-三島由紀夫著. 

情念の深層に働きかける-「言葉の呪術」より-古井由吉著. 

 

概説 久保昭博著 中村ともえ著. 

実際の有のままを写す-「叙事文」より-正岡子規著. 

写生趣味と空想趣味-「俳話(二)」より-高濱虚子著. 

描写はペインテングである-「描写論」より-田山花袋著. 

描写の気分-『人物描写法』より-徳田秋聲著. 

一元的描写-「現代将来の小説的発想を一新すべき僕の描写論」より-岩野泡鳴著. 

客観的共感性への不信-「描写のうしろに寝てゐられない」より-高見順著. 

 

概説 河田学著 笹尾佳代著 西川貴子著. 

貴種流離の物語-『日本文学の発生 序説』より-折口信夫著. 

天上から下界を見下ろすやうな態度-「岩野泡鳴氏の描写論」より-生田長江著.

無人称の語り手-『感性の変革』より-亀井秀雄著. 

はなし・かたり・うた-『かたり』より-坂部恵著. 

ツリー・モデルからデータベース・モデルへ-『動物化するポストモダン』より-東浩紀著. 

 

概説 岩松正洋著 斉藤渉著 中村ともえ著. 

詩と非詩との識域-『詩の原理』より-萩原朔太郎著. 

指示表出と自己表出としての文学作品-『言語にとって美とはなにか』より-吉本隆明著. 

作品を「作品」であると保証する客観的な特徴はありうるか-『詩の構造についての覚え書』より-入沢康夫著. 

七五調は四拍子-『日本語のリズム』より-別宮貞徳著. 

換喩と提喩との違い-『レトリック感覚』より-佐藤信夫著. 

詩的レトリックは言語の規範性に対する違犯の関係である-『詩的レトリック入門』より-北川透著. 

 

概説 飯島洋著 北村直子著 日高佳紀著. 

歴史の「自然」から脱する-「歴史其儘と歴史離れ」より-森鴎外著.

エゴの確立と小説-「逃亡奴隷と仮面紳士」より-伊藤整著. 

媒介された現実としてのフィクション-「肉体文学から肉体政治まで」より-丸山眞男著. 

現実に「主人公」という人物は存在しない-「虚構と現実」より-筒井康隆著. 

小説言語を弁別する虚構記号-『小説の日本語』より-野口武彦著. 

フィクション性の根源はコンテクストの違いにある-「虚構について」より-外山滋比古著. 

 

概説 岩松正洋著 菊地暁著 笹尾佳代著. 

作品は作者の意識の如何に頓着なく、客観的な価値の対象となる-「文学の読者の問題」より-片上伸著. 

群は作者であり作者はただその慧敏なる代表者に過ぎなかつた-『口承文芸大意』より-柳田國男著. 

文学消費者を本位とする文学観-「文学における読者の問題」より-大熊信行著.

読者の主体的補充-『修辞的残像』より-外山滋比古著. 

大衆小説においては「観念共感」の比重はより大きい-『『宮本武蔵』と日本人』より-桑原武夫著. 

〈趣向〉の優劣のみが作品の判断基準となる可能性-『物語消費論』より-大塚英志著. 

 

概説 菊地暁著 久保昭博著 西川貴子著. 

形象と展開-『文学序説』より-土居光知著. 何事も発生学風に研究して行くことであります-『日本芸能史六講』より-折口信夫著. 

文学の歴史を貫くものを、ことばによる想像の〈開拓性〉あるいは〈創造性〉とみたい-『火山列島の思想』より-益田勝実著. 

物語は放逐されるべきモノの語りである-『語り物序説』より-兵藤裕己著.

フルコトとモノガタリ-『物語の起源』より-藤井貞和著. 

 

概説 大浦康介著 永田知之著. 

文学的内容の形式は(F+f)なり-『文学論』より-夏目漱石著. 

言語による存在の表現それ自身-「講義文学概論」より-九鬼周造著.

形象と情調の複合体-『文芸学概論』より-岡崎義惠著.

特殊な存在の裏に普遍的な本質をみる-『文学とは何か』より-加藤周一著.

文学はイデオロギーを形成する-「文学とはなにか」より-桑原武夫著.

「文学入門」という商品 岩松正洋ほか著. 

日本近代文学と「ジャンル」論-俳句と探偵小説を例として-岩松正洋著. 

ふたつの「第二芸術」論と詩歌 岩松正洋著. 

中国文学理論の日本への影響 永田知之著. 

欧米における私小説研究 ホルカ・イリナ著. 

美学から見た日本文学 近藤秀樹著. 

日本の演劇理論-近代演劇概念の成立をめぐって-中筋朋著. 

日本の映画理論 小川佐和子著

 

 

 

http://www.suiseisha.net/blog/?p=7258

 

 

日本人はナボコフをどう読んできたか

7月7日(土)15時より、勤務校で「日本人はナボコフをどう読んできたか」と題する講演をおこないます(無料、予約不要)。

 

アメリカのナボコフ――塗りかえられた自画像』の第四章には収録できなかった資料や翻訳をふくむ内容をお話しする予定です。

 

詳しくは下記ポスターにて。

 

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ナボコフのアーカイヴを訪ねて⑯ ハーヴァード大学ラモント図書館ウッドベリー・ポエトリー・ルーム

ハーヴァードヤード東にあるラモント図書館は主に学部生が使用する図書館で、季節によっては24時間空いていて、一階にはカフェも常設されています。

 

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その四階にあるウッドベリー・ポエトリー・ルームには、詩集を中心に資料が置かれていますが、いくつか貴重な音源も聞くことができます。

 

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hcl.harvard.edu

ナボコフ関連だと、1964年4月9日にナボコフがハーヴァードのサンダース・シアターでおこなった最後の朗読会があるのですが、

 

yakusunohawatashi.hatenablog.com

このポエトリー・ルームではそのときの様子を録音した音源を所蔵しています。

 

Vladimir Nabokov at Harvard :[Nabokov reads excerpts from Pale fire, Lolita, and his own poems and translations of Russian poets

 

私がいったときはipodにいれたかたちで聴かせてくれました。

 

J-STAGEで過去の論文が読めます

比較文学』誌のバックナンバーのウェブ公開にしたがって、

過去に書いた論文や書評がJ-STAGEで読めるようになっています(随時追加されます)。

 

詳細検索結果

 

紀要は原則的に電子公開されていますが、ほかにも『通訳翻訳学会』や『ロシア語ロシア文学研究』などは無料でバックナンバー公開しています。

 

『通訳翻訳研究』アーカイブ

 

学会誌 - 日本ロシア文学会

 

ナボコフのあやまち

 『新潮』7月号に寄稿しました。

 

 「ナボコフの「あやまち」」『新潮』2018年7月号、194―195頁。

 

一般に愛妻家として知られナボコフが、

1937年のパリで嵌まり込んだ生涯ただ一度の「あやまち」、

イリーナ・グアダニーニとの不倫と、その後の顛末について書いています。

 

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刊行中の拙著『アメリカのナボコフ――塗りかえられた自画像』のコンパニオン・ピースとして書いたものですので、関心のある方はごらんください。