今号の『ユリイカ 特集✴辞書の世界』に小文を寄稿しました。
書ききれなかったことを書くと、やはりここ十年の電子辞書の普及は研究や読書環境を変えたな、と。
特に何カ国語もの辞書が電子辞書一冊におさまってしまうのはとても大きいです。
私が持っているのは3年前に購入したEX-GT10000で、電子辞書はこれが3代(台)目か4代目ですが、オプションの百科事典や英英辞典のほかに仏・独・露の辞典もインストールしているので、アメリカの片田舎でロシア語の詩を読んだり、ニュージーランドの学会に出席して空き時間に趣味のドイツ語の小説を読んだりすることもわけなくできるし(スーツケースに大量の辞典をいれて持ち運ぶ必要がない)、親知らずを抜いた跡からおびただしい出血があふれて眠れない夜には「親知らず」を英仏独露でなんというのか、(ひまつぶしに)知ることも一瞬でできるわけです(wisdom tooth, dent de sagesse, Weisheitszahn, зуб мудрости)。
OEDまでCDロム版が数百ドルで買え、パソコンにインストールできるいまと違って、昔の学生はえらい?もので、自分の学科の辞書室に日参しては辞書をひき、土日も泊まり込みで勉強したそうですね。昔は院生でも研究室の鍵をもらえたからできた芸当でしょうが…(いまは防犯上の理由でなし)。
学部時代のころ、私は英語科ではなかったんですが、辞書室ではなく、準備室のようなところにはいりこんで、そこの辞書をかってに使っていましたね。
たとえば当時は小学館のランダムハウス英和大辞典を持っていなかったので、そこでひいていたんですが、あるとき辞典に10頁ほど落丁があるのを見つけたときには驚きましたね。二十歳そこそこのナイーヴな若者だった私は、その場所こそ日本で一番英語に熱心な人々が集まってくるものと思いこんでいたのですから。
助手の人に言ってかえてもらいましたが、第二版が出版されたのが1992年ですから、10年以上だれもそのことに気づかなかったのでしょうかね……。
いまは電子辞書にあのでかいランダムハウスもはいっているのでわざわざ準備室に行く必要もないのですが、ますますあの辺の辞書を利用する人は減って、落丁もだれにも気づかれないんでしょうね。