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訳すのは「私」ブログ

書いたもの、訳したもの、いただいたものなど(ときどき記事)

『カメラ・オブスクーラ』

ナボコフ

カメラ・オブスクーラ (光文社古典新訳文庫 Aナ 1-1)

カメラ・オブスクーラ (光文社古典新訳文庫 Aナ 1-1)

今月出た貝澤哉訳『カメラ・オブスクーラ』(光文社古典新訳文庫)を買いました。

以前出版されていた篠田一士訳『マルゴ』が英語からだったのに対し、これはロシア語版からの翻訳ということです。

しかもこの作品の翻訳としては仏訳からの重訳である川崎竹一訳『マグダ』もあり、同一作品で三言語からの翻訳があるかなりめずらしい例になったのではないか、と思います。

ナボコフの長編でロシア語版と英語版からの邦訳がそれぞれ出版されているものとしては『賜物』についで二つ目ということになりますね。

ただし、私としてはこうした「新訳」の意義を「ロシア語版のほうがすぐれている」というようなことに還元したくはない。

事実、沼野訳『賜物』はロシア語版と英語版の両方に目を通し、場合によっては英語版の方を採用した箇所もある翻訳になっていました。

また同じ貝澤訳でも、『ナボコフ全短篇』に収録されている短篇「オーレリアン」は、短篇の中ではずばぬけて異同が多い作品ですが(ロシア語原題は「ピリグラム」)、私にはかなり英語版に忠実に訳しているように見えました。

つまり、この本の出版意義も、「ロシア語版と英語版、どっちの方がよい」という点にあるのではなく、「ロシア語版と英語版、どっちもみて(選択的に)訳した」という点にあるという風に個人的には考えております。