11月4日の『読売新聞』夕刊9面に、「ノーベル文学賞「候補」の実情」という記事を寄稿しました。
10月1日の講演をもとに、日本人最多8度(2017年現在判明しているかぎり)候補になった西脇順三郎について書いたものになっています。
yakusunohawatashi.hatenablog.com
よろしければご覧ください。
11月4日の『読売新聞』夕刊9面に、「ノーベル文学賞「候補」の実情」という記事を寄稿しました。
10月1日の講演をもとに、日本人最多8度(2017年現在判明しているかぎり)候補になった西脇順三郎について書いたものになっています。
yakusunohawatashi.hatenablog.com
よろしければご覧ください。
アーカイヴ紀行の6回目です。今回はコーネル大学です。
コーネル大学の所在地であるニューヨーク州イサカについては前にナボコフの旧居ツアーをしました。
yakusunohawatashi.hatenablog.com
イサカの丘の上にあるコーネル大学、そのメインライブラリーのオーリン図書館の、
地階にアーカイヴであるカール・A・クロック図書館(Carl A. Kroch Library)はあります。
閲覧席はこんな感じ。
ナボコフが教鞭をとっていた大学だけあって、関連資料が充実していますし、図書館も積極的に資料を収集しようとしているようです。
書簡に関しては、やはりコーネル大学教授だったモーリス・ビショップとその妻アリソン・ビショップとの書簡が保管されています。
あとはパリでナボコフのエージェントをしていたドゥシア・エルガとの間の書簡が貴重です。中には悪名高いオリンピア・プレスのモーリス・ジロディアスとの書簡も含まれています。
ほかに興味深いのは、学生のとったナボコフの講義の授業ノートが保管されていることです。『文学講義』シリーズは原稿が全部残されていたわけではないので、編者はこのような学生のノートも活用していまあるかたちのものをつくったんですね。
ここには円城塔の芥川賞受賞作品「道化師の蝶」のモチーフになった『見てごらん道化師を!』のヴェラへのイラスト付き献本も保管されています。
yakusunohawatashi.hatenablog.com
また、コーネル大学には、ナボコフの折り畳み式捕虫網もあるそうです(未見)。
ただし、図書館ではなく博物館の方に買われたのではないでしょうか。さすがに捕虫網を見ても論文書けそうにないのであれですが。
60年代以降、ナボコフとなかばセットのようにしてカメラにおさまったものです。
ここも写真OKです。それほど大きなアーカイヴではないんですが、司書の方が親切だった印象があります。だいたい、地方の図書館ほど外からきた人を歓迎してくれるんですよね。ただ、やはりイサカは遠いですね。
資料の充実度 ★★★★
使いやすさ ★★★★★
たどりつくまでの大変さ ★★★★★
10月29日、名古屋大学で行われる日本仏文学会秋季大会のワークショップ「越境作家の外国語執筆とアイデンティティ」で、お話させていただくことになりました。
コーディネーター、田中柊子先生、ほかのパネリストは塩谷祐人先生、鈴木哲平先生になります。
「グローバル」という語を聞かない日はないような現在、文学においても外国語でも作品を執筆する多言語作家の存在に注目が集まっている。外国語執筆の契機は亡命、移民、難民、旧植民地出身、個人的選択など多様だが、彼らはみな複数の言語と文化の間を行き来する越境作家である。このような作家たちはどのようにして作家としてのアイデンティティや創作のスタイルを定めていくのだろうか。
本ワークショップではまず田中が、チェコ出身でフランスに移住した作家ミラン・クンデラの世界的に読まれることを意識した自己翻訳と外国語執筆を検討する。新しい読者を意識し、母国の文化や言語的感覚をいかに変換し、また残すかという点を追究するクンデラの試みをもとに、文学的帰属、国民文学の枠組みに対する挑戦、外国語執筆で得られるものあるいは失われるもの、自らの越境状態に対する特別な意識など、越境作家のアイデンティティ形成を見ていく上で重要と思われるいくつかの切り口を提示する。
鈴木は、アイルランド生まれのフランス語作家サミュエル・ベケットをとりあげ、主に美学的理由による「越境」「バイリンガリズム」のケースを考える。ベケットは、アイルランド出版界の保守性(宗教宗派の違いにもかかわる)、イギリスでの無理解をこえて、フランスで/フランス語で書くことをとおして、作家としてのスタイルやアイデンティティを獲得した。具体的にはその英語執筆とフランス語執筆の比較や、一方から他方へと自らの作品を翻訳する「自己(自作)翻訳」を検証する。また可能な限り、その「大陸主義」の先達であるジェイムズ・ジョイスをも参照する。
秋草はロシア出身のバイリンガル作家ウラジーミル・ナボコフをとりあげる。ナボコフが亡命ロシア文学というコミュニティを代表するロシア語作家にベルリン―パリでなりながら、ナチスの台頭・第二次大戦を機にアメリカに脱出し、英語作家になったことは、同輩の亡命者たちからかならずしも快くうけとめられなかったという事実を出発点に、ナボコフと亡命ロシア人たちとの軋轢、最終的にナボコフが過去のロシア語作家としての自分を「自己翻訳」で破壊する様子を紹介する。
塩谷はロシアからフランスに移り住み、フランス語で現在も執筆を続けている作家のアンドレイ・マキーヌをとりあげる。2016 年にアカデミー・フランセーズの会員に選出されたマキーヌに焦点を当てることで、「フランス文学」という枠組みやフランスの文学システムの中で、いかに越境した作家たちが「作家としてのアイデンティティ」と向き合うことになるのかを検証し、彼らを取り込む(あるいは拒む)ことで作り直されていく「フランス」文学の可能性を示唆する。
一つの国家、言語、文化の枠組みを越えて活動する越境作家は、祖国を離れず母語で書き続ける作家たちとは異なる位置づけを与えられる。フランスに関して言えば、「フランス文学」とは別にこうした作家の作品を分類するための名称として、「フランス語圏文学」や「外国語文学」といった名称が使われる。これは文学を国別・言語別に考えていくことの限界が見てとれる現象であると言えるが、その一方で作家は生身の人間であり、限られた時間の中で特定の地域や文化に触れ、特定の言語を使って創作を行う。とりわけ、外国語で執筆する越境作家は、自らの複雑な言語的・文化的背景に向き合い、誰に向けて何を表現するのかという問題に直面する。国家の枠組みをすり抜けていく現代の越境作家の作品の内容や言語表現に、地理的・文化的・言語的特色を読み取り、彼らのアイデンティティ形成の在り方を追究するという試みは、逆説的ではあるが、今日における「文学」と「国籍」、「文学」と「言語」の関係についてあらためて考える契機になるだろう。
時間・場所についてはこちら。
アーカイヴ紀行の5回目はコロンビア大学バフメチェフ・アーカイヴです。
コロンビア大学はニューヨーク、マンハッタンのアッパーウェストサイドにあります。このあたりは昔は治安が悪かったそうですが、いまはそうでもない感じです。
印象的なドームのロウ記念図書館。
その向かいの東バトラー図書館の六階にバフメチェフ・アーカイヴはあります。
バフメチェフ・アーカイヴ(正式名称はBakhmeteff Archive of Russian and East European Culture)は、臨時政府の米国大使ボリス・バフメチェフの寄付によるものです。
アーカイヴの入口です。ガラスケースで展示が行われています。これが毎回楽しみ。
前に行ったときはチェスワフ・ミロシュの原稿を展示してました。
ここも事前予約必須です。請求書を書いてわたすと、閲覧席にボックスが運ばれてきます。
ボックスにはフォルダーが入っていますので、それを机に一枚ずつ出し、作業していくことになります。メモなどをとるとき、引用可能なようにbox、folederナンバーをひかえましょう。
ここもカメラ持ちこみ可なので、どんどん写真をとるといいでしょう。
nabokov and Rare Book & Manuscript Libraryで検索した結果だけでも、相当数のコレクションがあることがわかります。
Archival Collections Portal: Search Results
なかには別の場所にあって取り寄せに時間がかかる場合もあるので、前もっての連絡が重要です。
ナボコフに限らず、亡命ロシア文学関係で重要な資料が多いです。
ただし、公刊されたものも多いので、事前の入念なリサーチが必要です。
すでにあるものを筆写しても時間のロスですので。
たとえば、ロマン・グリンベルグ、ミハイル・ドブジンスキー、マルク・アルダーノフ、アブラム・ヤルモリンスキーとの書簡などは公刊されています。
(全体が公刊されていなくとも、書簡をもちいた論文が書かれ、部分的に引用されていることもあるので、注意が必要です。)
また、ミハイル・カルポヴィチとの書簡などは、手書きで書かれていることもあり、判読が難しいこともあります。
資料の充実度 ★★★★
使いやすさ ★★★★
周辺の雰囲気 ★★★
アーカイヴ紀行の四回目はイェール大学バイネキー稀覯本・草稿図書館です。
イェール大学はコネチカット州ニューヘイヴンに所在する私立大学です。
バイネキー稀覯本・草稿図書館はその荘厳な、英国風キャンパスのはずれにあります。
現代的な、かっこいい外観。
中はもっとかっこよい。
調査室は下におりていく形になります。
ここも膨大な資料を集める図書館ですが、ナボコフ関連で重要なのはエドマンド・ウィルソンとの書簡があることです。
これは書簡集のかたちでまとめられていますが、一部抹消されてしまった人名などもあるので、現物を見るのは悪いことではありません。
バイネキーには、ナボコフ関連にかぎってもウィルソン以外にも相当数の資料があります。特筆すべきは、亡命ロシア関連が充実していることです。ジナイーダ・シャホフスカヤ、ニーナ・ベルベーロヴァ、ニコライ・ナボコフ……
たとえば、ベルベーロヴァ・ペイパーズにはナボコフがホダセーヴィチにあてた手紙が数通保存されています(ベルベーロヴァはホダセーヴィチの恋人で、のちにイェールにつとめました)。
ただしロシア語の旧正字法で書かれた手書きの文書を解読するのは、かなり難しいのですが……。
事前にYale Finding Aid Databaseで資料についてよく研究していきましょう。
ここも小型カメラ持ち込み可です。現物を撮影できます。
また、これはバイネキーにかぎったことではないですが、アーカイヴを利用するときは写真付きIDを二種類求められることがあるので、パスポート以外にもなにか携帯しているといいでしょう。
街の寂しさにもかかわらず、もう一度滞在して、じっくり調査してみたいと思わせる図書館なのでした。
資料の充実度 ★★★★
使いやすさ ★★★★
街のshabby度 ★★★★★