今年の3月12日に駒場でおこなったシンポジウムの書きおこしが『すばる』に掲載されました。
「複数の言語、複数の文学──やわらかく拡がる創作と批評」『すばる』11月号、270-287頁。
(私はSession 2「ナボコフは世界文学か? 亡命・二言語使用・翻訳」275-280頁。)
尽力くださった関係者のみなさまにお礼申し上げます(特に武田先生)。
yakusunohawatashi.hatenablog.com
今年の3月12日に駒場でおこなったシンポジウムの書きおこしが『すばる』に掲載されました。
「複数の言語、複数の文学──やわらかく拡がる創作と批評」『すばる』11月号、270-287頁。
(私はSession 2「ナボコフは世界文学か? 亡命・二言語使用・翻訳」275-280頁。)
尽力くださった関係者のみなさまにお礼申し上げます(特に武田先生)。
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前回紹介した議会図書館には、Nabokov papers以外にもナボコフ関連の貴重な資料は数多く保管されています。その多くは書簡類で、別々の人間がそれぞれ寄付してしまうと、それぞれの文書・コレクションに分散してしますことになります。
すべてをあげるのは不可能ですが、ここではひとつだけ紹介しておきます。
草稿部門がある同じ建物James Madison Memorial Bldgに、音楽部門もあります。
そこに、Sergei Rachmaninoff archive, 1872-1992も保管されています。
著名な作曲家であるラフマニノフもまた亡命し、40年代にはアメリカに住んでいました。ナボコフが渡米直後にまっさきに会いにいったのがこのラフマニノフで、さまざなまかたちでナボコフの渡米後の生活をサポートしてくれようとした人物です。
ナボコフとラフマニノフをめぐる書簡や資料が数通、このアーカイヴに保管されています。たとえばfinding aidを参照すると、BOX-FOLDER 46/30に、
Nabokov, Vladimir, 1940-1943 and undated
Includes copy of Nabokov's letter to SR of 23 May 1941; Nabokov's English translation of Aleksandr Pushkin's Skupoĭrytsar' (=The Miserly Knight); Nabokov's curriculum vitae; and an undated note about this material in the hand of former Library of Congress staff member Wayne Shirley.
という資料があることがわかります。つまり、ラフマニノフは自作のオペラのために、プーシキン『吝嗇の騎士』の英訳をナボコフに依頼していたことがわかります。
(草稿部門でもそうですが)閲覧時には、この Box folderの番号を請求書に書いてだすことで、資料を出してもらえます。なお、ラフマニノフ・アーカイヴは、現物を見ることもでき、写真も撮ることができますので、解像度からくるストレスがありません。
なお、ナボコフとラフマニノフについては、この議会図書館の資料を調べて、ユーリイ・レヴィングがすでに"Singing The Bells and The Covetous Knight: Nabokov and Rachmaninoff’s Operatic Translations of Poe and Pushkin"という論文を書いています。
「ナボコフのアーカイヴを訪ねて」二回目は議会図書館です。
1959年に『ロリータ』のヒットによってふりかかった莫大な税金を減免するために、ナボコフは手元にあった原稿や書簡の一部を議会図書館に寄贈することにしました。完璧主義者の作家は、寄贈後50年は一般公開を禁じており、一部の研究者にしか内容は知られないままでした。
しかし、半世紀を経て、2009年に無事公開されました。
言うまでもなく、議会図書館はワシントンDCにある全米最大の図書館です。
ナボコフ関連の資料は基本的にmanuscript devisionに所蔵されています。ここはバーグのように事前連絡なしには利用できないというほどの厳密さはないですが、やはりメールでアポイントをとると安心です。
議会図書館も何棟もの建物で構成されており、なかには観光客むけの建物もありますが、manuscript devisionがはいっている建物James Madison Memorial Bldgは巨大なコンクリートの塊といった風情です。
恒例の手荷物検査をうけて入館したら、まず議会図書館全体の利用カードを専門の部署で作ります。写真付きのカードは二年間有効です。
閲覧室はこんな感じです。マニュスクリプト・デヴィジョンの部屋の中にロッカーがあり、そこに必要なもの以外は預けることができます。ですので、ほかのクロークに荷物を預けなくても大丈夫です。
ナボコフが59年に寄贈した資料は、すべてマイクロフィッシュ化されたのちデジタル化されています。半日もあればすべてをUSBにおさめてしまうことも可能です。
問題は解像度で、私は読みとれないことが多々ありました。もちろん、解像度抜きにしても英語やロシア語のハンドライティングを読みとるのは難しいのですが、デジタルだとさらに難易度があがります。
前もって交渉すれば、生の原稿や書簡を見れる可能性はあります。ただし、基本的には出したがらないと思った方がいいです。
もうひとつ、たしかに資料は多いですが、議会図書館のナボコフ・ペイパーズのなかには、刊行された資料も多々あります(『賜物』第二部、「ナターシャ」etc)。ですので、やはり綿密に下調べしないと、時間の浪費をすることになります。
(そういえば、ここに所蔵されているナボコフとボーリンゲン基金のウィリアム・マクガイアの書簡が一部収録された『ボーリンゲン--過去を集める冒険』(高山宏訳)の邦訳が刊行されましたね。これを読むにはマクガイアの方のアーカイヴを調べないといけませんが……)
やはりfinding aidや、
たとえば、上記のグレイソンのものとか最低限見ておかないとまずいですね。
資料の充実度 ★★★★
使いやすさ ★★★
周辺の飲食店 ★★
アーカイヴ探訪の一回目はニューヨーク公共図書館のバーグコレクションです。
マンハッタンのフィフス・アヴェニューの42番街にあって、ブライアント・パークに隣接した二頭のライオンでおなじみの公共図書館です(「公立」図書館ではない)。
『ゴーストバスターズ』の舞台としてもよく知られた観光地でもあります。
しかし、バーグに行くには正面左わきの小さな入口から入るのが便利です。
入ってすぐの受付で必要なもの以外は預けてしまいます(透明なバッグも借りられます)。
バーグ・コレクション(正式名称the Henry W. and Albert A. Berg Collection of English and American Literature )は三階にあります。
中はこんな感じです。保存のためか、冷房が効きすぎていて夏でも非常に寒いです。
はじめて利用する際には、直接バーグに行くのではなく、一般向けカウンターで図書館カードを作ってもらってから行くことになります。
また、バーグの利用は要予約です。事前にアポイントをとらないと利用が難しいです。前もって、なにを調べたいのか、finding aidをつかって目星をつけておきましょう(これはすべてに言えることですが)。
New York Public Library Web Server 1 /All Locations
http://archives.nypl.org/uploads/collection/generated_finding_aids/brg19126.pdf
気をつけなくてはならないのは、アメリカの大学図書館のアーカイヴは基本的に撮影可能ですが、バーグは不可だということです。そのため、気になるアイテムをすべて撮影して帰るというわけにはいきません。ノートか、ラップトップコンピューターで書き写すことになります。
コレクションを出してもらうのも、ひとつひとつ申込書に書いてキュレーター/ライブラリアンの人にわたさなくてはなりません。今はオンラインのところが多いのでちょっと手間です(NYPLのWiFiは使えます)。
ナボコフのコレクションについて。ここのコレクションは、以前紹介したように、ボイドの伝記作業完成後に、ヴェラとドミトリイがホロヴィッツ書店を通して150万ドルで売却したものになります。
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総数は一万五千点以上、原稿、書簡から手択本まで、あらゆるアイテムがおさめられています。あまりにヴァラエティに富んでいるため、一口で説明するのは難しいですし、私も全貌を知るわけではありません。
Nabokov Under Glass - An Exhibition at The New York Public Library
(1999年に生誕100年を記念して収蔵品の一部が展覧会で展示されました)
ただし、一部のアイテム(ロシア語で書かれたもの)は事前にエージェントの許可が必要になりますので注意してください。
撮影不可のため、書簡などは(可能なら)別の図書館で見たほうが楽なことが多いです。膨大なアイテムの量で、「なんでもある!」と思ってしまいますが、70年代以降の資料が欠落していたりすることもあります。
ナボコフに限らないですが、収蔵品を写真付きで紹介した書籍も刊行されています。
資料の充実度 ★★★★★★★★★★
使いやすさ ★★
館内の寒さ ★★★★★
唐突ですが、今度からナボコフのアーカイヴについての情報を不定期で何回かアップしていきたいと思います。
ナボコフの資料を収蔵している図書館・文書館はいくつかありますが、全米に散らばっているというのが実情です。
もちろんメジャーなところは数カ所あるのですが、意外なところに意外な資料があることも多いです(その逆もしかりです)。
ここで言う「資料」はいくつか種類があります。
1、草稿、原稿(日記などふくむ)
2、ゲラ
3、書簡
4、貴重書、稀覯本
5、その他
1があるところはごく限られた場所になります。それこそバーグ・コレクションや、議会図書館などです。これらは基本的にナボコフ(とその遺族)自身が寄贈・販売したとことです。
2は作家だけでなく出版社にも保存されている場合が多く、出版社(あるいは出版社が寄贈した)のアーカイヴがあればそこでも閲覧可能です。
3の場合、書簡はだすときに「写し(カーボンコピー)」がとられているケースが多いです。その場合、出した人間の手元に「写し」、受け取った人間の手元に原本が残ることになります。それぞれが別々の機関に預ければ、同じ手紙が二カ所で見れることになります。そのため、手紙が一番各地の図書館に拡散して収蔵されています。
4の場合、著者の手択本は1と同じかぎられたアーカイヴに所蔵されていますが、献本(insrcibed copies)は各地の図書館に散っていることになります。また手択本でもオークションなどを経て、ほかの図書館に所蔵されることもあります。
私の場合、3の書簡を2010年ごろからかなり閲覧してきました。なんらかのメモをとったものだけで1500通ぐらいは見たはずです(メモをとらずに流し読みだともっと多いです)。閲覧した機関も10カ所以上に及びます。
こういった調査の成果の一部はすでに出版され、また今後も出版される予定ですが、調査のほとんどが科研費補助金でおこなわれたということもあり、情報の共有の観点からも、忘れないうちに(情報が古くなりすぎないうちに)メモを残しておこうと思います。今後、ナボコフ関連で調査に行く方の役に立てば幸いです。
10月1日に勤務先で特別講演の第二回目を開催することになりました(詳細ポスター)。
予約不要・無料ですので、関心のある方はおさそいあわせのうえおいでください。
講演内容
今年の発表も10月中旬にひかえたノーベル文学賞は、
言うまでもなく世界でもっとも有名な文学賞でしょう。 昨年は歌手のボブ・ ディランが受賞したことでも話題になりました。アジアで二人目、 日本人初の受賞となった川端康成、大江健三郎や、毎年、「 有力候補」と報道される村上春樹など、 日本人ともかかわりの深い賞でもあります。 ノーベル賞と翻訳の問題、ほかの日本人作家候補など、 講師の最近の研究を紹介しながら、歴史・ 審査のプロセスなどわかりやすくお話しします。