訳すのは「私」ブログ

書いたもの、訳したもの、いただいたものなど(ときどき記事)

「書き直し」としての自己翻訳――ノーベル文学賞候補西脇順三郎の「神話」

論文を寄稿しました。

 

「「書き直し」としての自己翻訳――ノーベル文学賞候補西脇順三郎の「神話」」『アウリオン叢書16 芸術におけるリライト』弘学社、2016年、103-124頁。

 

昨年、白百合女子大学大学院の「書き直し、リライト」がテーマのオムニバス講義に呼んでいただいたのですが、そのときしゃべった原稿をもとに書きおろしたものになります。しかし私の場合、書いているうちに内容がどんどんずれ、ほぼ百パーセントゼロから書いたものになりました。

 

 内容(節見出し)はこんな感じです。

 

 自己翻訳と「書き直し」

 

ノーベル文学賞候補西脇順三郎

 

「しゆんらん」と "January in Kyoto"

 

モダニズムの世界的普及

 

エズラ・パウンドは西脇の詩をどう読んだのか

 

モダニズムオリエンタリズム

 

タゴールと西脇

 

自己翻訳と「リライト」

 

西脇順三郎の「ノーベル文学賞候補」という肩書きの実質ってどうなの?」というテーマで、『三田文学』には絶対にのらない内容になっております(笑)。

 今回はテーマ講義に呼んでいただいたおかげで、普段なかなか考えていても書けないテーマについて書くことができてよかったです。関係者のみなさまにお礼申し上げます。

 

「アウリオン叢書」ですが、白百合女子大学言語・文学研究センター編の書籍で、すでに16号を数えています。ちなみに今号の目次はこうなっています。

 

海老根龍介 はじめに

 

篠田勝英 書き継ぎと書き直し――『薔薇物語』の場合

 

辻川慶子 ネルヴァルにおける引用の詩学に向けて――フランス・ロマン主義時代におけるリライト

 

日置貴之 演劇におけるリライトーー日本の古典演劇と西洋演劇の比較を通して

 

笠間直穂子 フランス小説の漫画化をめぐって

 

北村昌幸 軍記物語のなかの『史記

 

畠山寛 ヘルダーリンの『エンペドクレスの死』――書き換えの原因とその意味

 

秋草俊一郎 「書き直し」としての自己翻訳――ノーベル文学賞候補西脇順三郎の「神話」

 

塩塚秀一郎 自画像としての引用――ジョルジュ・ペレックの実践

 

緑川眞知子 『源氏物語』のメタモルフォシス

 

河本真理 美術におけるリライト(描き直し)/コラージュ

 

小山太一 エミリー・ブロンテ嵐が丘』と四つのワールド・シネマ

 

福田美雪 「君の削除箇所を読め(Lis tes ratures)」――小説家ゾラの「準備ノート」

 

(私はのぞいて)豪華な執筆陣になっております。ちなみに表誌はこんな感じです。

 

f:id:yakusunohawatashi:20160604224331j:plain

 

過去のバックナンバーの内容も豪華なのですが、目次自体あまり見れない……

笠間書院のサイトで少し見れます)

 

笠間書院 kasamashoin ONLINE:白百合女子大学言語・文学研究センター編『書物の現場 アウリオン叢書12』(弘学社)

 

笠間書院 kasamashoin ONLINE:白百合女子大学言語・文学研究センター編『文学と悪 アウリオン叢書15』(弘学社)

 

本号もISBNもつき、価格も1200円と表示されているのですが、なかなか買える場所がなさそう……。

 

 

というわけで、16号をブログ読者の方一名にプレゼントします。

送付先をサイドバーのアドレスにお送りください(どなたでも可、先着順、応募あり次第文言消去)。

ナボコフの値段① 書簡編

今回は文字通りナボコフの「値段」の話です。

 

ナボコフの場合、原稿はまれですが、サイン本、手紙なんかは

現在でも市場にでることがあります。

 

そもそもナボコフは「高く売られる」作家でした。

 

サイモン・ガーフィールド『手紙 その消えゆく世界をたどる旅』(杉田七重訳、柏書房)によれば、

 

ところが一九九一年、彼〔グレン・ホロヴィッツ〕はヴェラ・ナボコフとドミトリー・ナボコフのふたりからスイスへ「召喚」される。ウラジーミルの文書をどうしていいかわからないふたりが、自分たちの手には負えない問題に手を貸して欲しいと彼を頼ったのだ。「モントルーとニューヨークを行ったり来たりして、六か月から九か月にわたる熾烈な交渉を経たのち、すべてひっくるめて、百五十万ドルで購入するようニューヨーク公図書館を説得した」と彼は言う。「それはもう画期的な取り引きで、自分でそう思うだけじゃなく、見ているみんながそう言った。この仕事によって、切羽詰まった利害関係を持つ様々な顧客を扱う交渉人のスキルを認められたばかりじゃなく、ひとつの文書コレクションを、当時史上最高と見られる高額で売ることのできる人間としても認められたわけなんだ。(353頁)

 

 

 

 

このとき売却されたコレクションがニューヨーク公図書館のバーグコレクションに収蔵されているVladimir Nabokov Papersの幹となっているはずです。

 

グレン・ホロヴィッツについてはこちらの記事も(英文)ありますが、100万ドルを超える取引というのは文学業界では初のことだったようです。

 

ただ、これは書簡だけでなく、未刊行の原稿や日記など膨大な資料もふくめての価格なので、手紙一通がいくら、というのはわかりません。

 

1994年のサザビーズのカタログ

 English Literature and History, Private Press and Illustrated Books and Related Drawings: Including Papers of the First Duke of Ormonde, Lord Lieutenant of Ireland, Books from the Library of Stanley Baldwin, Books and Papers of the Spy Kim Philby, Original Set Designs for Films by Charles Chaplin, Manuscripts of Literary and Religious Works by Lancelot Andrewes, Saint Robert Southwell, S.J. Robert Southey, Francis Thompson, Oscar Wilde, Rudyard Kipling and Others, a Fine Letter by Elizabeth I to Charles IX about War with France, Fine Series of Letters by Christina Rossetti, Roger Casement, G.B. Shaw, Graham Greene, Vladimir Nabokov and Others, Inscribed Presentation Copies of Books by James Joyce, Oscar Wilde, Graham Greene, Winston Churchill and Others

 (クッソ長い書名ですが)にはロットナンバー205番にNabokov Papers of Andrew Fieldが出品されています。

アンドルー・フィールドはナボコフのお墨付きをえて作家の生前に伝記を執筆していましたが、のちに決裂した人物です。

おそらく、ホロヴィッツの取引が話題になったので、自分の資料も出品したのでしょう。

内容は

1)ナボコフがサインした23通のフィールド宛書簡

2)ナボコフのフィールドによる伝記の訂正

3)ナボコフがフィールドによる伝記のために提供した資料

 

 

などです。1)のなかには、当然ながら『ナボコフ書簡集』に入っていない手紙も多数です。

 

 

(下巻はまだ新品がある?みたいですね)

この価格が8000-12000ドルとカタログにはでています(85頁)。

 

(ちなみにこれを誰が落札したのか謎で、学者のあいだでもとりざたされましたが、バーグ・コレクションのfinding aidを見ると、いくつか類似の項目がありますので、おそらくNYPLが購入して、統合したのかな、と。)

 

ナボコフの書簡は単発でもオークションにかけられることはあります。

いくつかあるオークション・サイトをまわってみましょう。(それぞれリンク先で現物画像が見れます。いまは多くのサイトで手紙が可読な状態で画像掲載されているので、研究者にはありがたいです)

 

Heritage Auctionというサイトに残っているのは

#36335としてVladimir Nabokov. Typed Letter Signed. [N.p.], December 11, 1958.

が掲載されています。

 

エージェントのエルガに送った手紙で、『ロリータ』出版後のオリンピア・プレスのジロディアスとのごたごたについてのものですが、落札価格は手数料込みで1500ドルだったようです(2013年4月10日に終了済み)。

 

ほかにもBonhamsというサイトでは、

2015年12月9日のオークションでナボコフが妹の職がないか、

議会図書館に出した1949年1月14日の手紙が出品されています(lot128)。

これは2500ドルで落札されたようです。

(ただこれは別オークションのlot1039としても登録されており、価格設定6000-8000が強気すぎて売れなかったため、別のオークションに流れた?のでしょうか)

 

このサイトだと、手紙ついてはほかにも、ナボコフから詩人ハーヴェイ・ブレイットにあてたものなどが掲載されており、それぞれ732ドル、1586ドルで2010年6月23日のオークションで落札されています。

 

クリスティーズにはほかにも、(画像ないですが)グレーブ・ストゥルーベあての手紙が、1996年5月22日に748ドルで売られたという記録があります

 

ほかにも落札価格がわからないものが別のサイトにもいくつか掲載されています。

「なぜこの手紙よりあっちの手紙のほうが高いのか?」と正直、価格の理由がよくわからないものも多いですが(時期、分量、内容、typed or not、signed or notとかが微妙に影響)、手紙だと一通1000~3000ドルぐらいで買えるのかな、と。

(この項、不定期でつづく)

フランコ・モレッティ『遠読――<世界文学システム>への挑戦』みすず書房③(追記あり)

①はこちら、②はこちら

サブタイトルが「<世界文学システム>への挑戦」に決まりました。

価格が当初の4500円から4600円(税抜き)になってしまったのですが、

 なぜか現在、Amazonでは100円引きの4500円で予約できています。

 

 

 

カバー画像がみすず書房のサイトにアップされました。

遠読

 

テクノロジーや流通の革命・発達により世界がネットワーク化する今日、ごく少数(世界で刊行される小説の1%にも満たない)の「正典(カノン)」を「精読」するだけで「世界文学」は説明できるのか?
西 洋を中心とする文学研究/比較文学ディシプリンが通用しえない時代に、比較文学モレッティが「文学史すべてに対する目の向けかたの変更を目指」して着 手したのが、コンピューターを駆使して膨大なデータの解析を行い、文学史を自然科学や社会学の理論モデル(ダーウィンの進化論、ウォーラーステインの世界 システム理論)から俯瞰的に分析する「遠読」の手法だ。
本書には、「遠読」の視座を提示し物議を醸した論文「世界文学への試論」はじめ「遠読」が 世界文学にとりうるさまざまな分析法が展開する10の論文が収められている。グラフや地図、系統樹によって、世界文学の形式・プロット・文体の変容、タイ トルの傾向や登場人物のネットワークが描出されてゆくのだ。
21世紀に入り、人文学においても、デジタル技術を用いて対象や事象をデータ化し、調 査・分析・綜合を行う〈デジタル・ヒューマニティーズ〉の方法論が拓かれつつある。「遠読」もまた世界文学に新たな視界を開こうとする比較文学からの挑戦 なのだ――「野心的になればなるほど距離は遠くなくてはならない」。

ドミトリイ・バーキン『奈落に落ちて』(ISIAメディア出版社、ライプツィヒ、2016)を買ってみた

2015年4月に亡くなったドミトリイ・バーキンの本が今年の2月にでていたので、驚いてとりよせてみました。

 

なぜかドイツの出版社といろいろうさんくさい感じでしたが、

注文したらわりあい早くつきました。価格も送料込みで15ユーロ、

クレジットカードで問題なく決済できました。

f:id:yakusunohawatashi:20160525084537j:plain

 

現物はこんな感じ。

ここでも多少内容を読むことができます。

 

内容ですが、実質バーキンの「全集」といっていいと思います。

(なお、タイトルは『出身国』にも収録した短編「奈落に落ちて」からとられています。)

 

 

・『出身国』に収録した短編7編に加えて、

既発表・単行本未収録の短編3編、未発表1編。

 

・未完の長編『死から誕生へ』から3章(うち2章は初公開)。

 

・若書きの歴史小説の断片

 

・執筆予定だった中編小説のための断片

 

・既出インタヴュー1本(追記:工藤羊さんという方がウェブ上で翻訳してくれていました

 

・軍隊勤務中に両親に送った手紙

 

・父45歳の記念に書いた詩

 

上記に加えて、編集者の回想、書評の再録、批評家の解説などが載っています。

序文は父親の作家ゲンナジイ・ボチャロフによる息子への追悼文です。

 

とりあえずわかったこととしては、

やはり長編は未完のままだったことでしょうか。

(60ページほど)

 

7割以上既読の文章だったのは残念ですが、

まあ仕方ありません。

 

 

フランコ・モレッティ『遠読』みすず書房②:目次など

どうやら、『ナボコフの塊』よりフランコモレッティ『遠読』(みすず書房)のほうが先に出そうです。タイトルの(仮)もとれました。

 

 

 

目次

 

近代ヨーロッパ文学――地理的なスケッチ

 

世界文学への試論

 

文学の屠場

 

プラネット・ハリウッド

 

さらなる試論

 

進化、世界システム、世界文学

 

始まりの終わり――クリストファー・プレンダーガストへの応答

 

小説――歴史と理論

 

スタイル株式会社――7000タイトルの省察(1740年から1850年のイギリス小説)

 

ネットワーク理論、プロット分析

 

訳者あとがき

 

索引

 

問題作「世界文学への試論」も完全収録しております。

 

原書についてはすでに作家の円城塔さんが昨年書評を書いていますので、

一部引用――

 

世界文学なるものを語るためにはどうすることができるのか。人間に世界文学なる巨大すぎるものを考えることができるのだろうか。まだ考えることができずにいるなら、どういうアプローチを進めていくべきなのか。とりあえず遠くから眺めてみようというのがモレッティの主張であり、統計データとかをきちんととるところからはじめよう、という。〔中略〕そういう全体像の把握さえ誰もしていないというのは問題だ。〔中略〕そういうことを調べずに、世界文学について語るのはただの思い込みでしかないかも知れない。

 

「遠くから見る世界文学」『本の雑誌』2015年5月号

 

6月11日にちゃんとでるんでしょうか…。

Nabokov and Laughlin: A Making of an American Writer

"Nabokov and Laughlin: A Making of an American Writer"

という論文をNabokov Online Journalの10/11号(2016/2017)に掲載してもらいました。

 

*最新号はなにもしなくても全文読めるのかと思っていましたが、

やはり登録(無料)が必要なようです。

こちらで全文読むことができます(pdfがひらきます。結構重いです)。

(いまの号の目次)

http://www.nabokovonline.com/current-volume.html

 

1940年にアメリカにやってきたナボコフが、いかに同地の「文壇」に同化していったのかを、編集者とのつきあいからさぐったものになっております。

 

 

NOJは前々号にも論文が掲載されたこともあり、

その際に多少説明しているので、こちらをご覧ください。

 

ちなみに、前号のNOJでは「『賜物』続編騒動」がまきおこっていました。

(これについては昨年エントリで書きました)

2015-09-25 - 訳すのは「私」ブログ

 

今号では、そのドリーニンの批判をうけて、バビコフによる反論と、

さらにドリーニンによる再批判が掲載されています。

この論争もいったんこれで落としどころでしょうか?

 

同じロシア人とはいえ、

(所属先)アメリカ/ロシア、旧世代/新世代、職業研究者/アマチュア

といった対立が表にでてきたな、といった感じがします。

 

日本だと、「アメリカ系の研究者/ロシア系の研究者」といった

非常に単純な図式で研究の流れをとらえがちなのですが、

 人材の流動性が高まっている現在、構図はより複雑化していることを認識する必要があるでしょう。

 

 

特集は「ナボコフと大衆文化」ですが(しかしこのテーマで日本の寄稿者がいないのはいかにも残念)、

ナボコフ本の世界一のコレクターであるMichael Juliarや、

黎明期のナボコフ研究をけん引したDonald Barton Johnsonのインタヴューなど、

特集や論文以外も充実しています。

 

ナボコフの誕生日にあわせて、4月22日から公開されていましたが、

ばたばたしていて告知が遅れました。

 

次号はナボコフの没後40周年に合わせて刊行・特集が組まれるのでしょうね。

 

興味・関心のおありのかたはお読みください。

 

(↓論文でとりあげたゴーゴリ論。この邦訳版にもいろいろつっこみどころがあるのですが、今回はスルーですね。)

 

 

森泉岳士『ハルはめぐりて』(エンターブレイン)

森泉岳士さんの『ハルはめぐりて』(エンターブレイン)の英語副題作成に協力しました。

 

中学生の「ハル」が、ベトナム、台湾、モンゴル、日本の温泉地を旅するのですが、

森泉さんの筆による異国の風景描写がひとつの読みどころになっています。

 

 

  もうすでに『カフカの「城」他三篇』(河出書房新社)で文学ファンにもすっかりおなじみな森泉さんですが、 はじめにデビュー作「森のマリー」、それから「小夜子、かけるかける」を『コミックビーム』で読んだときには震えましたよね。月並みですが、新しい才能が世に出る瞬間を目の当たりにしている!という感じがして。

 

 

 

 ↑「森のマリー」、「小夜子、かけるかける」も収録の短編集『耳は忘れない』。

そういえばここに収録されている表題作の「耳は忘れない」でも主人公はインド旅行に

いきますね。 これは実体験だったのが、今回のあとがきを読むとわかります。

 

たいしたお手伝いはしていないですが、尊敬するクリエイターと仕事ができたのは大変うれしかったです。