訳すのは「私」ブログ

書いたもの、訳したもの、いただいたものなど(ときどき記事)

Nabokov@New York City12 Rockfeller Centor studios, 26 November 1958

1958年10月につづいて、ナボコフ夫妻は11月にもニューヨークをたずねます。今回のニューヨーク滞在は、初のTV出演であるCBCのインタヴューの収録がロックフェラーセンターであったのです。

 

She felt differently about his first televison appearance, a CBC interview conducted at the Rockfeller Center studios. She exclaimed over the mekeup artist who powdered her husband's head to keep the bald spot from shining; her excitement over the countdown to air time is palpable. As she sat with Dmitri in the darkened auditorium, she was thirilled to watch he husband as she never had before: in duplicate.  Stacy Schiff, Véra

ロックフェラーセンターにあるスタジオで、ナボコフははじめてのTV出演をはたします。ただしこの時点ではアメリカのテレビ局ではなく、CBC(カナダ放送協会)というのがミソでしょう(つまり、58年時点ではアメリカのテレビ局はナボコフのインタヴューを流すのを躊躇していた)。しかし、もちろんこれは、それはのちのTV出演のきっかけにすぎませんでした。

 

f:id:yakusunohawatashi:20180330124452j:plain

 

ロックフェラーセンターは前回のアストリアホテルのすぐそばに位置しています。

 

f:id:yakusunohawatashi:20180330124049p:plain

 

収録にはインタヴュアーとしてCBCのキャスターのPierre Bertonとライオネル・トリリングが参加しました。

 

前回から参照しているシフの伝記『ヴェラ』は、後発のものだけあってブライアン・ボイドの伝記にない情報も多く書かれており、1999年の刊行にもかかわらず、いまだに参考になる点が多いです。ただし、このTV撮影は『ヴェラ』にあるような10月ではなく、11月におこなわれたようです。

 

 

 

この前日の25日、ナボコフ夫妻はパットナム社の社主ウォルター・ミントン夫妻と、Cafe Chambordで食事しています。このときの事件についてはローパーのNabokov in Americaがくわしく書いています。

 

ruthreichl.com

 

 

Nabokov@New York City11 Waldorf Astoria New York, October 1958

久しぶりにNabokov@New York Cityの更新です。

 

1958年8月、アメリカ版『ロリータ』が パットナム社より刊行されると、ナボコフの周囲はにわかにあわただしくなっていきます。

 

10月、ナボコフ夫妻は2週間ほどニューヨーク・シティを訪れることになりました。このときの話は、たびたび参照してきたボイドの伝記ではなく、ステイシー・シフの『ヴェラ(ナボコフ夫人)』のほうに詳しく書かれています。

 

In the course of October the Nabokovs made two weekend trips to New York. On the first occasion Vladimir spoke at The Herald Tribune's Book and Autjor Luncheon at the Waldorf-Astoria, along with his fellow bestsellers Agnes de Mille and Fannie Hurt. Before a thousand people he read his poem "An Evening of Russian Poetry," mentioning Lolita not at all. Véra believed the verse was lost on the audience, which for the most part consisted of elderly women.  Stacy Schiff, Véra

 

ウォルドルフ=アストリアはマンハッタンの中心部にある「アメリカを代表する高級ホテル」です。

ウォルドルフ=アストリア - Wikipedia

 

f:id:yakusunohawatashi:20180330124156j:plain

 

そこで『ヘラルド・トリビューン』の主催で、振付師アグネス・デ=ミルと、作家ファニー・ハーストと一緒に朗読会をおこなうことになりました。1958年の時点で、「ベストセラー」作家というくくりで、ナボコフがどういった作家とまとめられていたのかは興味深いです。

 

共演者二人が女性作家ということもあり、ホールをうめた千人の年配の女性は、ナボコフが読んだ詩「ロシア詩の夕べ」のユーモアを理解しなかったようです。

 

実はこのときの朗読の様子を以下のニューヨーク公共ラジオのサイトで聴くことができます(ただしこのサイトでは朗読を『ロリータ』刊行直前としていますが、おそらくまちがい)。

  

www.wnyc.org

たしかにこれを聴くと、観衆が拍手を送っているのがわかりますが、笑い声はまったく起こっていませんね。

 

 

 

つづきます。

『アメリカのナボコフ――塗りかえられた自画像』(慶應義塾大学出版会)目次公開

エミリー・アプター『翻訳地帯――新しい人文学の批評パラダイムにむけて』の刊行がせまっていますが、同じ慶應義塾大学出版会から5月に刊行予定の、『アメリカのナボコフ――描きかえられた自画像』目次を公開いたします。

 

アメリカのナボコフ――塗りかえられた自画像

  

目次

 

凡例

 

図案・写真一覧

 

序章 ナボコフと読者たち【オーディエンス】

 

第1章 亡命の傷――アメリカのロシアで

 

第2章 ナボコフとロフリン――アメリカ・デビューとモダニズム出版社

 

第3章 注釈のなかのナボコフ――『エヴゲーニイ・オネーギン』訳注から自伝へ

 

第4章 フィルムのなかナボコフ――ファインダー越しに見た自画像

 

第5章 日本文学のなかのナボコフ――戦後日本のシャドーキャノン

 

第6章 カタログのなかのナボコフ――正典化、死後出版、オークション

 

おわりに

 

索引

 

付録

 

引用元クレジット一覧

 

こちらもよろしくお願いいたします。

頭木弘樹編『絶望図書館――立ち直れそうもないとき、心に寄り添ってくれる12の物語』ちくま文庫、宮下遼『多元性の都市イスタンブルーー近世オスマン帝都の都市空間と詩人、庶民、異邦人』大阪大学出版会、 貴志雅之編『アメリカ文学における幸福の追求とその行方』金星堂

 頭木弘樹編『絶望図書館――立ち直れそうもないとき、心に寄り添ってくれる12の物語』ちくま文庫

 

 

 

頭木さんからご恵贈いただく。カフカの名紹介者として著名な著者がはじめて編んだアンソロジー。読者に「寄り添う」という立場が鮮明で、アンソロジーづくりのひとつのあり方を突き詰めたもの。

 

宮下遼『多元性の都市イスタンブルーー近世オスマン帝都の都市空間と詩人、庶民、異邦人』大阪大学出版会

 

 

 

翻訳家としても著名な宮下さんの単著。流麗な文章で数々の詩を翻訳引用しながらイスタンブルの街の多層的な歴史が掘り起こされていく。著者の力量のスケールの大きさに圧倒される。

 

 貴志雅之編『アメリカ文学における幸福の追求とその行方』金星堂

 

 

 

後藤篤さんよりご恵投いただきました。後藤さんは「明白なる薄明――ウラジーミル・ナボコフの『プニン』におけるハッピーエンドの追求」を執筆。一連の論考とおなじ、後期の英語作品を当時のアメリカのコンテクストに戻して読んでやるタイプの論文。本書にはほかに17の論考をおさめている(目次)。

 

頭木さん、宮下さん、後藤さん、どうもありがとうございました。

言語文化研究所主催シンポジウム 『トランスレーション・アダプテーション・インターテクスチュアリティ』

 第二部に登壇予定です。

 

言語文化研究所主催シンポジウム
『トランスレーション・アダプテーション・インターテクスチュアリティ』


日時:2018年3月12日(月)10:30開場11:00開始
会場:高輪校舎2階15201教室

 

1部11:00~12:50
2部13:30~16:30

本シンポジウム『トランスレーション・アダプテーション・インターテクスチュアリティ』では、『越境』にみられる変化と連続性を考察する。小説などの原作の映画化に代表されるジャンルからジャンルへの越境や、対象とする観客の趣向等に合わせたシェイクスピア劇の翻案が生み出す作品同士の相違、あるいはナボコフらの作品の時代毎の受容・流通に着目し、作品同士を比較することで、そこに社会的・歴史的背景が浮かび上がってくる。こうしたアプローチは、翻訳という言語から言語へ越境や、ボードレールによる古典教育のイミテーションなどの考察にも有効となる。本シンポジウムが持つ越境に関する視座は、以上のような作品分析そのものを対象とするだけでなく、各発表者が専門とする時代や地域の多様性とも深く結びついている。発表者の専門領域は16世紀から21世紀の現代までと幅広く、地域的にもアメリカ・ロシア東欧・フランス・イギリスと多岐に渡っており、時代縦断的でありかつ地域横断的な議論が期待される。

 

 

明治学院大学:言語文化研究所

目次公開 エミリー・アプター『翻訳地帯――新しい人文学の批評パラダイムにむけて』(慶應義塾大学出版会)

一年半がかりで共同で翻訳をすすめてきましたエミリー・アプター『翻訳地帯――新しい人文学の批評パラダイムにむけて』(慶應義塾大学出版会)が、版元のサイトに掲載されました。

 

以下に目次を公開いたします。

 

翻訳をめぐる二十の命題

 イントロダクション

イントロダクション

第一章 9.11後の翻訳――戦争技法を誤訳する

 第一部 人文主義を翻訳する

第二章 人文主義における人間
第三章 グローバル翻訳知――比較文学の「発明」、イスタンブール、一九三三年
第四章 サイード人文主義

 第二部 翻訳不可能性のポリティクス

第五章 翻訳可能なものはなにもない
第六章 「翻訳不可能」なアルジェリア――言語殺しの政治学
第七章 複言語ドグマ――縛りのある翻訳

 第三部 言語戦争

第八章 バルカン・バベル――翻訳地帯、軍事地帯
第九章 戦争と話法
第十章 傷ついた経験の言語 
第十一章 CNNクレオール――商標リテラシーとグローバル言語旅行
第十二章 文学史におけるコンデの「クレオリテ」 

 第四部 翻訳のテクノロジー

第十三章 自然からデータへ
第十四章 オリジナルなき翻訳――テクスト複製のスキャンダル
第十五章 すべては翻訳可能である

 結論

第十六章 新しい比較文学

訳者解説 秋草俊一郎
索引

 

版元の内容紹介も引用します。

 

 翻訳研究と文学を融合する

 9.11「同時多発テロ」以降、ますます混迷する世界状況にたいし、人文学はどのようなことばで相対することが可能だろうか?
著者は、「戦争とは他の手段をもってする誤訳や食い違いの極端な継続にほかならない」という定義から出発し、単一言語(英語)主義がうむ世界の軋轢に警鐘を鳴らしつつ、「翻訳」の観点から新たな人文学のアプローチを模索する。
 本書で俎上に上げられるのは、第二次世界大戦中のシュピッツァー、アウエルバッハの思想にある人文主義的コスモポリタニズム、スピヴァク、サイードの惑星的批評、ウリポなどの実験的な言語芸術の政治性、クレオールバルカン半島の多言語状況の文学、さらには現代アートと擬似翻訳を例にした翻訳とテクノロジーの問題……など多岐にわたる。
 「翻訳可能なものはなにもない」「すべては翻訳可能である」――二つの矛盾するテーゼを掲げ、言語と言語の狭間にあるものを拾いあげること、「翻訳中」のままに思考しつづけることを提言する。

 

 

www.keio-up.co.jp

 予約もうけつけております。

 https://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4766425189/hnzk-22

ナボコフのアーカイヴを訪ねて⑬ マサチューセッツ工科大学大学稀覯館・特別コレクション

さて、アーカイヴ紀行の13回目はMITことマサチューセッツ工科大学です。

 

f:id:yakusunohawatashi:20120808030131j:plain

チャールズ川に面したドームが印象的。

f:id:yakusunohawatashi:20120808050537j:plain

キャンパス内は印象的な建築や彫刻も多い。

 

ここのInstitute Archives & Special Collectionsには、かつてMITで教鞭をとったロマン・ヤコブソン関連の資料が収蔵されています。

 Guide to the Papers of Roman Jakobson MC.0072

 その中にナボコフの書簡が二通、収蔵されています。

うち一通は、1953年にヤコブソンに『イーゴリ軍記』翻訳について、問い合わせる内容になっています(当時、ヤコブソンとナボコフと、コーネル大学歴史学者マルク・シェフチェリは共同でこの古典の英訳にあたろうとしていました)。

また、その時点で、ナボコフが単独で訳した『イーゴリ軍記』のタイプも収められています(ただし、のちにナボコフはこの訳を取り下げました)。

 

f:id:yakusunohawatashi:20160315105003j:plain

 

おさめられているものは多くはないですが、ナボコフヤコブソンの関係を調べる際には一度訪問してみてもいいでしょう。

 

 

 

MIT近辺ではTatteがおすすめです。

tattebakery.com

 

資料の充実度 ★

使いやすさ  ★★★★

理系度 ★★★★★