訳すのは「私」ブログ

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フランコ・モレッティ『遠読――<世界文学システム>への挑戦』みすず書房⑥:図一部紹介

モレッティ『遠読』ですが、どういった内容なのか、紹介文だけからではなかなか伝わらない部分も大きいと思います。

 

背の帯には「21世紀の文学研究」と書いてありますが、一体どの辺が新しいのか?

 

それを端的にわかってもらうには、実は文章ではなく、図を見ていただくのが一番かもしれません。百聞(文)は一見に如かず、ということで、本書からいくつか図を引用してみました。

 

①「文学の屠場」より、「なぜホームズ作品だけが同時代の多くの犯罪小説のなかで生き残ったのか?」を、「手がかり」やその可視性によって分類した図。

 

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②「プラネット・ハリウッド」より、ハリウッド映画の世界各地での興行収入を地図上に図示したもの。

 

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③「スタイル株式会社」より、18世紀―19世紀の英国小説のタイトルの長さ(語数)を計測したもの。

 

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④「ネットワーク理論、プロット分析」より、『ハムレット』における登場人物の関係を、「作中で会話があったかどうか」で図式化したもの。

 

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うーん、こういう図を出発点にして、いったいどんな分析がおこなわれるのか?

……それは本書を読んでのお楽しみ、ということで。

 

 

公開講座「ウラジーミル・ナボコフの人生と文学」

きたる6月25日、本務校にて一般向け公開講座をおこないます。

 

開催演題 「ウラジーミル・ナボコフの人生と文学」

開催日時 平成28年6月25日(土)14:00から1時間30分程度

開催場所 日本大学大学院総合社会情報研究科日本大学本部所沢校舎)

 

詳細はこちら

 

ごくごく一般向け(ナボコフって誰?レベル)にナボコフの人生と作品を紹介する予定です。

 

(「予約が必要」、とでていますが、飛び入り参加も可能なようです)

フランコ・モレッティ『遠読――<世界文学システム>への挑戦』みすず書房⑤:訂正

おかげさまで共訳書が刊行になりました(今井亮一、落合一樹、高橋知之との共訳)。

(ただし青山ブックセンター表参道店に発売日の11日行ったところ、おいていませんでした……)

 

 

誤植、誤訳の訂正があればこの日付のブログに順次アップしていく予定です。

 

77頁 誤 「清代後期の語り手について」→正 「清朝末の語り手について」

85頁(注19) 誤 「清代後期の作家たちにとっては」→正「清朝末の作家たちにとっては」

同様の変更、さらに二カ所(「清代後期」→「清朝末」)

87―88頁(注26) 誤 「清代後期の小説の顕著な」→正「清朝末の小説の顕著な」

132頁 誤 Ⅰ →正 一

134頁 誤 Ⅱ →正 二

137頁 誤 Ⅲ →正 三

140頁 誤 Ⅳ →正 四

143頁 誤 V →正 五

145頁 誤 Ⅵ →正 六

158頁 誤 フランチェスカ → 正 フランチェスコ

224頁 誤 Ⅰ →正 一

229頁 誤 Ⅱ →正 二

231頁 誤 Ⅲ →正 三

235頁 誤 Ⅳ →正 四

236頁 誤 V →正 五

240頁 誤 Ⅵ →正 六

240頁 誤 Ⅶ →正 七

251頁 誤 Ⅰ →正 一

262頁 誤 Ⅱ →正 二

265頁 誤「六大奇作」→正「六大奇書」

271頁 誤「イプセン人形の家』『幽霊』」→正「プルース『人形』、イプセン『幽霊』

273頁 誤 Ⅲ →正 三

 

 

 

 

i頁 誤『人形の家』→正トル

viii頁 (項目追加) プルース、ボレスワフ 271頁

   『人形』 271頁

 

162頁 注2の最後 Inquiry, 29, (2003).→ Inquiry, 29, (2003)(エミリー・アプター「グローバル翻訳知――比較文学の「発明」、イスタンブール、一九三三年」『翻訳地帯――新しい人文学の批評パラダイムにむけて』秋草俊一郎・今井亮一・坪野圭介・山辺弦訳、慶應義塾大学出版会、二〇一八年、六五―一〇五頁).

 

189頁 『ブルジョアーー歴史と文学のあいだ』→『ブルジョワーー歴史と文学のあいだ』

 

221頁 『ブルジョアーー歴史と文学のあいだ』→『ブルジョワーー歴史と文学のあいだ』

 

索引 X頁 右段 『ブルジョアーー歴史と文学のあいだ』→『ブルジョワーー歴史と文学のあいだ』

 

 

 

 

フランコ・モレッティ『遠読――<世界文学システム>への挑戦』みすず書房④:書影、紹介エッセイ

フランコ・モレッティ『遠読――<世界文学システム>への挑戦』は明日11日発売です。東京の大型書店ではすでに店頭に並んでいるのではないか、と思います。

 

共訳者の今井さんが、みすず書房の特設ウェブサイトにエッセイを寄稿してくれました。

 

www.msz.co.jp

こちら、刊行から一週間ほどのあいだ、掲載されている、期間限定のものだそうです。

読みやすく、訳書の魅力を伝えておりますので、ぜひお読みください。

 

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(原書と。大きさ自体は変わりませんが、日本語版は索引・訳注が圧倒的に充実、「訳者あとがき」も15頁と、かなり力をいれて書いています)

 

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表紙は原書と同じ「ネットワーク理論、プロット分析」の『ハムレット』のネットワーク分析の図から。線が銀色になっていてかっこいいです。

 

過去の告知もお読みいただければ幸いです。

yakusunohawatashi.hatenablog.com

yakusunohawatashi.hatenablog.com

yakusunohawatashi.hatenablog.com

 

ナボコフの値段③ レア本編①

①書簡編②原稿編もどうぞ。

 

著者が献辞を書いて、知人に送った自著――inscribed copy――のジャンルで、もっとも有名なナボコフ本ははっきりしています。

 

リック・ゲコスキー『トールキンのガウン―稀覯本ディーラーが明かす、稀な本、稀な人々』(高宮利行訳、早川書房、2008年)は稀覯本ディーラーの実体験をつづったエッセイですが、その第二章が『ロリータ』です。

 

 (この本、品切れのようなのでハヤカワNFで文庫化してほしいですね)

 この本、ナボコフの『ロリータ』の価格の変遷がわかっておもしろいです。

 

『ロリータ』がベストセラーになったのは、グレアム・グリーンの力によるところが大きいという事実はよく知られています。というよりも、グリーンの評に評論家のゴードンが噛みつき、それで話題になったのです。(グリーンのゴードンいじりについては以下の本もくわしいです)

 

 

あとになって、ナボコフはグリーンに会い、献辞付きの『ロリータ』を送ります。この本は当然ながら、上記のような歴史的経緯があるので、非常に価値があるものになります。

 

まずゲコスキーがカタログに献辞付きの『ロリータ』を載せます。

 

一九八八年春の古書目録十号二四三番に、私は次の本を載せた。

 

ナボコフ、ウラジーミル著。『ロリータ』ロンドン、一九五九年。イギリス初版、著者からいとこのピーター・ド・ピ-ターソン夫妻への献呈本、一九五九年十一月六日の日付入り、献辞の下に著者のトレードマークである蝶を描いた小さな絵付き。

 

三千二百五十ポンド(17頁)

 

するとグリーンから連絡があり、グリーンあての献辞がついた『ロリータ』を買いとることになります。

 

グリーンは、五〇年代のパリを彷彿とさせる濃緑色で小ぶりの二巻本『ロリータ』を取り出した。その本の献辞は息を呑むほどのものだった。「グレアム・グリーン様、ウラジーミル・ナボコフより、一九五九年十一月八日」この言葉に続いて、大きな緑の蝶の絵が描かれており、その下にナボコフは「腰の高さで舞う緑のアゲハチョウ」と書いていた。 21頁

 

ゲコスキーはこの本をグリーンから四千ポンドで買い取りました。そしてすぐさま「 エルトン・ジョンの作詞家で、ポニーテールで愛想がよいバーニー・トービン」に九千ポンドで売却します。(21-22頁)

 

 グレアム・グリーンから購入したオリジナル本のほうは、一九九二年に一万三千ポンドで買い戻し、まもなくニューヨーク在住の収集家に売却した。彼にとっては安い買い物だった。二〇〇二年にはこれが<クリスティーズ>にふたたび現れたときには、二十六万四千ドルという驚天動地の価格に跳ね上がった。私はそのとき会場に居合わせ、とび上がるほどに驚いたが、古書業者としての良心の呵責で気分が悪くなった。30頁

 

短期間でめちゃめちゃ値段があがっているのがわかると思います。

わずか十年少々で、何十倍もの値がついています。最終的には三千万ぐらいですか。

(4000GBP→9000GBP→13000GBP→264000$)

 

とはいえ、inscribed copyについてはこのあともやや話が長くなるので、いったんここで切ります。

 

(追記)

 アリソン・フーヴァー・バートレット『本を愛しすぎた男――本泥棒と古書店探偵と愛書狂』(築地誠子訳、原書房、2013年)の主人公、本泥棒ジョン・ギルキーも『ロリータ』の初版本に執心だったようです。

 

一九九七年の春、ギルキーの生活は生き生きとしていた。[中略]彼はバウマン・レアブックショップに電話をかけて、お勧めの本があるかとたずねた。店員は『ロリータ』の初版本をあげた。その本なら知っていた。[中略]それに、値段がその種の本にしてはそれほど高くない――およそ二千五百ドルだった。[中略]もちろん、ギルキーの『ロリータ』は、その百分の一にも満たないが、最初に購入した高価な本として、彼の心の中で特別な位置を占めることになった。61-63

 

一九九七年の時点で初版本が二五〇〇ドルですか。いまはその十倍はするでしょうね!

 

ナボコフの値段② 原稿編

前回の内容(①書簡編)はこちら

 

2回目は原稿の値段です。

 

原稿にかんしては多くが図書館などの機関に流れていて、一般に販売されるケースはまれです。

 

前回言及したグレン・ホロヴィッツ・ブックセラーは、戯曲『モルン氏の悲劇』の原稿を販売しているようです。

 

また、2010年6月2日にクリスティーズで、ナボコフのチェス・プロブレムの原稿が売りに出されていました。こちらは7500ポンドで落札されたものです(しかしこれ、はっきりしないですが、LoCで見た気がするなあ……)。

 

VLADIMIR NABOKOV collection of 58 sketches chess zadach

 

ほかにはちょっとしたノートや、修正の指示、インタヴューのゲラなどが売りに出されています。

 

しかし近年売りに出された中でもっとも大きなものは、『ローラのオリジナル』の原稿でしょう。この未完の長編の原稿は、インデックスカードのかたちのまま公刊されたことで話題になりましたが、まさに『ローラのオリジナル』のオリジナルのインデックスカードひとそろいです。

 

 

こちらは2010年11月23日におこなわれたクリスティーズのオークションで78050ポンドで販売されました。1200万円ぐらいでしょうか。

ただ、これは予想価格――estimate(£100,000 - £150,000)を下回る金額で売却されています。

 

 実際のところ、出版された『ローラのオリジナル』には、このインデックスカードがコピーされて、すべて収録されていますから、資料的価値はゼロですよね。

 

となると、こちらの『ルージン・ディフェンス』の妻あての一冊に添えた仏語版校正用カードとか(10625ポンドで2008年11月27日に落札)、

こっちのおそらく『アーダ』作業中に使ったと思われる『青白い炎』第二版の書きこみありの版とかのほうが見てみたいですね。実際後者は2002年10月11日ながら26290ドルで落札されています。ただ、こうなってくると原稿というよりはinscribed copyになってきます。(つづく)

ウラジーミル・ナボコフ『見てごらん道化師を!』メドロック皆尾麻弥訳、後藤篤注、作品社、2016年

訳者のメドロック皆尾さんと注担当の後藤さんのお二人からご恵贈いただきました。

 

(表紙のデザインも実際に手に取ってみると、赤がシックで画像よりも素敵だと思いました。)

 

 

旧訳を出版していた出版社が現行ないことを考えると、

ある意味では自然な新訳でしょう。

 

お二人とも、どうもありがとうございました。