訳すのは「私」ブログ

書いたもの、訳したもの、いただいたものなど(ときどき記事)

「作家の写真を読む― 『ロリータ』の著者ナボコフは、いかに世界的作家になったか」

お招きいただきまして、東京外国語大学でお話しさせていただくことになりました(ありがとうございます)。

  

東京外国語大学 研究講義棟104教室

2018年5月15日(火)16:00-17:30

 

1958年、中年男がローティーンの少女に惹かれるという
センセーショナルな内容の小説、『ロリータ』を刊行した
ロシア人ウラジーミル・ナボコフは、一躍時の人になりました。
この突然あらわれたベストセラー作家に、メディアはむらがりましたが、
その視線はかならずしも好意的なものだけとはかぎりませんでした。
50年代終わりから60年代、70年代をつうじて、
『ライフ』や『エスクァイア』、『ヴォーグ』といった雑誌を通じて
流通した作家の写真をスライドでごらんいただきながら、
作家が、いかに写真家やメディアと協同し、
「文豪」や「セレブリティ」といったセルフイメージを
つくっていったのかを検証したいと思います。

 

 

ロシア若手トーク:秋草俊一郎さん(日本大学大学院総合社会情報研究科・准教授;比較文学、翻訳研究) | 2018年度 | EVENTS | 東京外国語大学

 

 ↓の本の内容についてお話しさせていただきます。

ご関心のあるかたはおいでください。

 

 

「中西部のある大学」――佐伯彰一の見た「世界文学」(上)

東京大学出版会のPR誌『UP』5月号に寄稿しました。

 

 「「中西部のある大学」――佐伯彰一の見た「世界文学」(上)」『UP』5月号、33-40頁。

 

二か月連続掲載の一回目になります。

 

f:id:yakusunohawatashi:20180427045830j:plain

 

今回のテーマは佐伯彰一の「反世界文学」思想と、北米の「世界文学」教育です。

内容は以前連載していた「21世紀世界文学カノンのゆくえ」の番外編のようなものになっております。

 

yakusunohawatashi.hatenablog.com

 

『UP』は全国大学生協や一部大型書店などで配布されています。

また、東京大学出版会では定期購読も受けつけています。

PR誌「UP」 - 東京大学出版会

 

ご関心のある方はお手に取ってごらんください。

『アメリカのナボコフ――描きかえられた自画像』(慶應義塾大学出版会)詳細目次公開

慶応義塾大学出版会から刊行予定の『アメリカのナボコフ――描きかえられた自画像』の校正が終わり、発売日も5月18日に決まりましたので(amazonだと19日)、節までふくめた詳細な目次をあげておきます。

 

序 章 ナボコフと読者たち 

 

1 ナボコフ、アメリカ上陸/2 新天地でのロシア語活動/3 「ロシア詩の夕べ」/4 『ロリータ』以後/5 ケンブリッジ凱旋/6 各章について/7 亡命者の自画像

 

第一章 亡命の傷――アメリカのロシアで 

 

1 亡命、二言語使用、翻訳/2 亡命文学史上の「V・シーリン」/3 亡命者たちの英語作家ナボコフ評/4 アメリカのなかのロシアで/5 プニンたち/6 ハーヴァード・ヤードの青い芝生/7 「『ロリータ』と題する書物について」は誰のために書かれたか/8 『ドクトル・ジバゴ』の波紋/9 優雅な生活が最高の復讐である/10 賞と名声と/11 自己翻訳の果て/12 「翻訳」という仮面/13 ナボコフは世界文学か?/14 亡命の神話

 

第二章 ナボコフとロフリン――アメリカ・デビューとモダニズム出版社 

 

1 アメリカ作家になる方法/2 ただ愛のために/3 パウンドの「啓示」とニューディレクションズ誕生/4 セバスチャン・ナイト――近代世界の殉教者として/5 ロフリンの歓迎/6 ニューディレクションズの販売戦略のなかで/7 ボーン・モダン――アルヴィン・ラスティグ/8 バニー&ヴォロージャvs「あのJのやつ」/9 文学というビジネス/10 送りつけられた「時限爆弾」/11 「時限爆弾」の爆発/12 書きかえられた『セバスチャン・ナイト』/13 フェンシングの親善試合/14 出版界の変革の波にさらされて/15 消えた風景/16 「ニューディレクションズの作家」から「アメリカの作家」へ

 

第三章 注釈のなかのナボコフ――『エヴゲーニイ・オネーギン』訳注から自伝へ 

 

1 『エヴゲーニイ・オネーギン』翻訳と注釈/2 埋めこまれた記憶/3 自己言及癖のある語り手/4 注釈――第四章十九連四│六行/5 決闘の謎/6 三冊の「回想記/伝記」/7 二度はゆけぬ場所の地図/8 記憶の索引/9 「眼鏡」から「貝のかたちをしたシガレットケース」へ/10 バトヴォの森で/11 『記憶よ、語れ』第三章二節/12 「回想」から「伝記」へ

 

第四章 フィルムのなかのナボコフ――ファインダー越しに見た自画像 

 

1 被写体としてのナボコフ/2 「捕虫網をもった芸術家」/3 「愛妻家ナボコフ」/4 ぼく自身のための広告/5 そしてアイコンへ/6 ナボコフ朝時代/7 「変人」から「セレブ」へ/8 自己移植の時代錯誤/9 鏡の国の囚われ人

 

第五章 日本文学のなかのナボコフ――戦後日本のシャドーキャノン 

 

1 円城塔――蝶に導かれて/2 ナボコフ日本上陸とその周辺/3 丸谷才一――モダニズム私小説批判/4 「樹影譚」――「捏造」された「起源」/5 大江健三郎――晩年の傾倒/6 『美しいアナベル・リイ』――『ロリータ』を書きかえる/7 隠匿された「告白」、「悪霊」憑きのテクスト/8 「マイクロキャノン」としての私小説/9 性と文学――谷崎/川端/ナボコフ/10 ソフト・パワー戦略の掌中のなかで/11 『ロリータ』を超えて

 

第六章 カタログのなかのナボコフ――正典化、死後出版、オークション 

 

1 「欲望」の対象としての『ロリータ』/2 世界一高価な『ロリータ』/3 正典化されるナボコフ/4 売り払われる遺産/5 ドミトリイ・ナボコフ――父の代理人/6 ヴェラの蝶/7 ドミトリイの蝶/8 『ローラのオリジナル』のオリジナル/9 刊行ラッシュ/10 在庫一掃セール/11 息子の死/12 プライヴェートからパブリックへ

 

おわりに 

 

アメリカ到着後の年譜と地図 

引用元クレジット一覧 

図版一覧 

索引 

 

www.keio-up.co.jp

honto.jp

 

 

ナボコフのアーカイヴを訪ねて⑮ ハーヴァード大学比較動物学エルンスト・マイヤー図書館

ハーヴァードにはナボコフが一時的に非常勤研究員のようなかたちで勤務した比較動物学博物館があることはかつてこのブログでもとりあげました。

 

yakusunohawatashi.hatenablog.com

f:id:yakusunohawatashi:20120926020802j:plain

 

博物館自体もナボコフが採集した鱗翅類の標本などを所有していますが、今回紹介するのはその二階にある図書館です。

 

f:id:yakusunohawatashi:20120926020315j:plain

 

前回紹介した生物学者エルンスト・マイヤーの名前が冠された図書館になります。

ここのスペシャル・コレクションは、ナボコフの書簡を所蔵しています。

  

library.mcz.harvard.edu

この書簡は、比較的近年になってから寄付によって収蔵されたもので、Nabokov's BUtterfliesにも収録されていないものです。

 

 

 

マチュアの鱗翅目学者フランク・チェルモクに出した手紙六通が収蔵されています(1944―1952)。チュルモク(1906-1967)は、アマチュアと言えども膨大なコレクションを持った分類の権威でした。ちなみに、ここの書簡をもとにして一度短い報告をNabokovianに投稿したこともありました。

 

yakusunohawatashi.hatenablog.com

 

資料の充実度 ★

使いやすさ  ★★★★

アトラクション度 ★★★

ナボコフのアーカイヴを訪ねて⑭ ハーヴァード大学大学稀覯館・特別コレクション

アーカイヴ紀行の14回目です。

 

いよいよハーヴァード大学のアーカイヴを紹介するのですが、ナボコフ関係に絞ってもいくつかロケーションがあるため、数回にわけて記事化したいと思います。

 

まず今回はハーヴァード大学の地下にある大学稀覯館University archiveから。ここはピュゼー図書館内にあります。ピュゼー図書館は地下にあり、ラモント図書館の地下からアクセスするのが便利です。

 

Welcome! | Harvard University Archives | Harvard Library

 

ここには大学関係の資料が収蔵されています。シラバスや、卒業生・修了生の名簿、成績、大学関係の手紙などなどといったものですね。会議の議事録など、一部の資料は80年たたないと公開されませんが……。

 

たとえば、ナボコフだと1952年にハリー・レヴィンとミハイル・カルポヴィチの依頼を受けてのことです。

 

yakusunohawatashi.hatenablog.com

そのときの講義内容はここに収蔵されているHaravrad University CatalogueやCourses of Instruction、シラバスなどからある程度知ることができます。

 

f:id:yakusunohawatashi:20131204030756j:plain

 

たとえば上記の資料によれば、ナボコフがうけもった52年のHumanities Iの春学期のコースは、総登録者数470名だったことがわかります。うちわけは1年生191、2年生182、3年生10、4年生4、ラドクリフ大学(女子)83名でした。470名は多いですね。

 

同じくModern Russian Literatureの春学期は、総登録者数44名。うちわけは1年生1、2年生3、3年生10、4年生9、特別学生1、大学院生5、ラドクリフ大学(女子)15名。

 

Pushikin and HIs Timeの春学期(半期コース)は、総登録者数12名。うちわけは2年生1、3年生2、4年生2、大学院生4、ラドクリフ大学(女子)3名。

 

ほかにも、ナボコフケンブリッジを去った後にハーヴァードの比較動物学博物館に着任した動物学者エルンスト・マイヤーナボコフにあてた手紙のうつし三通(1968-1974)とヴェラからのその返事など読むことができます。マイヤーはナボコフに比較動物学博物館を再訪してほしかったようですが、残念ながらその希望はかなえられなかったようです。

 

資料の充実度 ★★

使いやすさ  ★★

奥底度 ★★★★★

エミリー・アプター『翻訳地帯――新しい人文学の批評パラダイムにむけて』(慶應義塾大学出版会)

ついに 共訳書、エミリー・アプター『翻訳地帯――新しい人文学の批評パラダイムにむけて』(秋草俊一郎・今井亮一・坪野圭介・山辺弦訳、慶應義塾大学出版会)が刊行になりました。

 

翻訳研究と文学を融合する
 9.11「同時多発テロ」以降、ますます混迷する世界状況にたいし、人文学はどのようなことばで相対することが可能だろうか?
著者は、「戦争とは他の手段をもってする誤訳や食い違いの極端な継続にほかならない」という定義から出発し、単一言語(英語)主義がうむ世界の軋轢に警鐘を鳴らしつつ、「翻訳」の観点から新たな人文学のアプローチを模索する。
 本書で俎上に上げられるのは、第二次世界大戦中のシュピッツァー、アウエルバッハの思想にある人文主義的コスモポリタニズム、スピヴァク、サイードの惑星的批評、ウリポなどの実験的な言語芸術の政治性、クレオールバルカン半島の多言語状況の文学、さらには現代アートと擬似翻訳を例にした翻訳とテクノロジーの問題……など多岐にわたる。
 「翻訳可能なものはなにもない」「すべては翻訳可能である」――二つの矛盾するテーゼを掲げ、言語と言語の狭間にあるものを拾いあげること、「翻訳中」のままに思考しつづけることを提言する。

 

目次はこちら

出版社サイトはこちら。

 

www.keio-up.co.jp

 

f:id:yakusunohawatashi:20180405204730j:plain

 なお、表紙はLaurie FirckというアーティストのMood+Quantifyという作品をつかわせていただいております。

 

www.lauriefrick.com

 

 

これで「世界文学」三部作(と勝手に呼んでいる)の翻訳がでそろいました。合わせて読んでみてください。

 

f:id:yakusunohawatashi:20180413101322j:plain

 

 

 

 

 

 

エミリー・アプター『翻訳地帯――新しい人文学の批評パラダイムにむけて』正誤表

※この日の日記にエミリー・アプター『翻訳地帯――新しい人文学の批評パラダイムにむけて』に誤字・誤植・誤訳など見つかり次第アップしていく予定です。

 

79頁 フローレンス→フィレンツェ(二カ所)