藤井省三『魯迅−−東アジアを生きる文学』(岩波新書)をなんとはなしに読んでいたところ、魯迅も自己翻訳をしていたことを教えられました。
北京の邦字週刊誌『北京週報』(1923年1月の新年特別号に「魯迅作同人訳」として)に魯迅自身による自作の童話「兎と猫」の邦訳が載せられた、とのことで、これは魯迅作品の最初期の日本語紹介のひとつに数えられるらしい(153頁)。
原作は1922年10月10日「晨報」副刊。
魯迅が日本人作家の翻訳や、エロシェンコなどの作家の日本語からの重訳をしていたことは知識として知っていましたが、自己翻訳をしていたことは不勉強ながら知りませんでした。「兎と猫」の全文が収められている藤井訳の『故郷/阿Q正伝』(古典新訳文庫)も未チェックだったので、あとでじっくり読んでみたいです。
この『魯迅』、新書という性格ゆえか、藤井氏のいままでの著作と重なる部分があるとはいえ、「藤井魯迅」の入門としてよいのではないでしょうか。
ところで、七章「日本と魯迅」で、藤井氏は竹内好による魯迅の訳文を批判して、「竹内好によるこのような意訳は、原作者魯迅に対するリスペクトを欠いているのではないだろうか」とするのですが(183頁)、「いい訳文」は単純に作者を「リスペクト」していればできるものではないので、この表現はやや踏み込みすぎ、「指しすぎ」な気もしますね。しかしこういった箇所に本書のおもしろさがあるのですけれど。
こういった翻訳の評価の変遷の話は「訳すのは「私」」的な話というよりも、まさに「世界文学と何か?」的な話になってきますが。
- 作者: 藤井省三
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/03/19
- メディア: 新書
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