自己翻訳かどうかわかりませんが、ヘンテコなものを見つけたのでメモ。
シャネルの日本法人社長リシャール・コラス(1953〜)が最近出版した小説『紗綾―SAYA』の説明にこう書いてありました。
フランスで、文学賞「みんなのための文化図書館賞」を受賞した『SAYA』を、著者であるリシャール・コラスが自ら日本語で執筆。歳の差を超えた純粋な愛に心が震える、儚くも美しい悲恋の物語。
(Amazonの「商品の説明」より)
もとの本を自分で書いたのに「自ら日本語で執筆」?という表現が気になりますね。それって自分で自作を翻訳する<自己翻訳>とどうちがうんでしょうか?
で、調べてみると原本とおぼしき本もありました。フランス語版のSayaは2009年に出版したもののようです。
実際に本屋で現物を見てみたのですが、特にフランス語版との関係について説明はナシ。上記のアマゾンの説明ほぼそのままでした。
コラスはパリ大学東洋語学部卒業ののち、日本大使館での勤務経験など日本での仕事が多い人物ですが、日本語に翻訳された本はあっても「訳者」がクレジットされていない本は初めてのようです。
こういう原本との対応関係が明快でない本を見ると、なにか「自分で訳した」と書きたくない理由が版元か作者の方にあったのではないかと考えたくなりますね。たとえば翻訳書は売れない、とか、担当者に「自分で執筆>>翻訳」という考えがあったとか、あるいは権利関係でしょうか。とはいえ、原本がフランスで賞をもらったことを紹介して権威ずけしているわけですから、オリジナル版とどういう照応関係にあるのか、改作なのか、まったくいちから作り替えたのかを記さないというのは読者にアンフェアな気がしますね。
「自ら日本語で執筆」という曖昧な記述になんか釈然としないなあ・・・・・・というのが正直なところでしょうか。
- 作者: リシャールコラス,Richard Collasse
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2011/09
- メディア: 単行本
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