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『「世界文学」はつくられる――1827-2020』書評まとめ

拙著 『「世界文学」はつくられる――1827-2020』(東京大学出版会)にいただいた書評をまとめています。どうもありがとうございました。(随時追記します。)

 

小谷野敦先生『週刊読書人』2020年8月21日号 「この無機質な書籍の功徳 文学は少数派のものであり、教育や商業主義に馴染まないもの」

米国で使われるノートン版アンソロジーの、授業を進めるための懇切丁寧なマニュアルを紹介されると、文学というの は個々人が関心を持ち自分で探して読んでいくものだという原点に気づく。福田恆存が「一匹と九十九匹と」で言った ように、文学は少数派のものであり、そもそも教育や商業主義に馴染まないものだということに気づかされるのが、こ の無機質な書籍の功徳であろう。

dokushojin.com

 

加藤百合先生『日本経済新聞』2020年8月22日 「「カノン」の成立 精細に再現」

各部において、明治以来の日本、革命後のソ連、そして大戦後の北米、それぞれ、誰がいかなる意思と時代の制約のもとに『世界文学全集』を編んだのか、その過程を証言を積み上げ精細に再現してゆく。この三国の内情の比較を本格的に行えるのはいま著者を措(お)いていない。

 

www.nikkei.com

 

苅部直先生『読売新聞』8月30日 「再編成される「名作」」

 

「世界」が共有すべきすぐれた文学作品とは何か。その基準を考え、「名作」を選び出す営みが、政治や社会の秩序を維持し、あるいは再編成する動きに関わってゆく。本書が投げかけるのは、異なる言語の文学を理解する方法とともに、文学をめぐる広い意味での政治に関する問いにほかならない。

 

岡和田晃先生『図書新聞』3469号、2020年10月31日、2頁。

本書は、「世界文学」の成立させる”大人の事情”を丸裸にした本だが、にもかかわらず”大人の事情”を転覆させることへの期待をも、読者に抱かせる特異な一冊だ。

 

安原瑛治さん『れにくさ』第11号、2021年、222-227頁。

 

本書はふたつの読みに開かれている。第一に、日本、ソヴィエト、アメリカ合衆国における「世界文学」受容の構成性を分析した、包括的実証的な研究として。それから、「世界文学」にかかわる様ざまな個人をえがいた、興味深い物語として。全体性と個人の弁証法が、本書に、独特の魅力をあたえている。

 

阿部賢一先生『比較文学』第63巻、2021年、115-118頁。

 

「世界文学」を形成する動機として、宗教的なもの、政治的なもの、文化的なもの、経済的なものが随時明らかにされていく様子はきわめて刺激的であり、それは同時に「文学」の周囲を形作るものを考えさせる契機になっている。

 

 今井敦先生『世界文学』133号、2021年、86頁。

研究を通じて「世界文学」の表象内容は今後も作り変えられていくわけで…「世界文学」という「読みのモード」自体、今も生きている、あるいは、新しく生まれ変わっている[・・・]。

 

中野幸男先生『ロシア語ロシア文学研究』第53号、2021年、158頁。

本作は著者にしか書けない力作で、著者の留学した北米的な研究の広さも見られる。[…]「翻訳」「市場」など現在の文学研究の背後に存在している問題群や、アーカイヴ研究や日米の出版社への聞き取りなど、本書で著者が見せている、あまり他の研究者に見ないような行動力は今後の周囲の研究者に刺激となると考えられる。