魯迅のバイリンガリズムについてひとつ論文に当たったのでメモ。
陳仲奇「魯迅作品における日本語的表現要素について」『総合政策論叢』10号、2005年。
魯迅作品の中に日本語表現が輸入されている例が具体的に示してあって(私はまったく魯迅研究・中国語について無知なのですが)興味深いです。以下抜き書き。
『野草・題辞』にいたっては、用語にしろ、構文にしろ、ほとんど全篇が日本語の構文に暗合し[中略]驚くべきことに、その読み下し式の直訳は中国語原文よりもむしろ自然な文体になっているように思える。63頁。
魯迅作品の日本語的表現は決して無意識の内に自然に流露されたものではなく、それは作者の意図によったものだということである。64頁。
魯迅の取った手法は次のような三つのパターンに分けることができる。一、日本語の語彙をそのまま使う。二、日本語の語法的構造原則を鑑みにして、独自な新語を作り出す。三、語彙だけでなく、文法や表現習慣まで、日本語的な栄養分を文脈の中に巧みに織り込んでいたもの。この三つの手法を使い分けることによって、魯迅は中国現代白話文の典型を模索し、創り上げたのである。69頁。
自分で発見した例が多く引かれた、手間のかかった論文だと思います。