訳すのは「私」ブログ

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ナボコフ全短篇

ナボコフ全短篇

ナボコフ全短篇

ナボコフ全短篇』が作品社より刊行されました。

この短篇集は2000〜2001年に出版された『ナボコフ短篇全集Ⅰ』『ナボコフ短篇全集Ⅱ』を改訳の上まとめて、そこに後に発見された未訳の初期短篇三つを加えたものになっています。

新しく加わった短篇は「ナターシャ」「言葉」「復活祭の雨」の三つですが、うち「言葉」「復活祭の雨」を訳出しております。以下、かんたんな解説。


・「言葉」は全短篇の中でももっとも短いもののひとつで、一種の散文詩といった感じ。その点では短篇「雷雨」とも似ていますね。また、ナボコフにしては珍しく宗教的な作品としても読めるかもしれません(ただし、初期の詩などでは宗教がテーマであることは少なくない)。

・「復活祭の雨」は「マドモワゼルO」の原型になった作品で、筋書きはもとより、種々のディテールが類似しているので、比較して読んでみるとおもしろいかもしれません。ちなみに「マドモワゼルO」は仏語版、英語雑誌掲載版、英語『確証』版、ロシア語『向こう岸』版、英語『記憶よ、語れ』版と少なくとも五つのヴァージョンがあります。「復活祭の雨」もこうした改作者ナボコフを証しだてるヴァージョンに入れてもいいかもしれません。


ちなみにどちらも作者の手による英語版=自己翻訳はないので、ロシア語から訳しています。


私の訳したものはともかく、68もの短篇が一冊に並ぶと壮観ですね。まあ、かなりお高いですが……。