- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1997/10
- メディア: 単行本
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この人のちょっと突き放したようなクールな文体はいったいどこから来ているのでしょうか? それについては僕は詳しく研究したわけではないので断言はできないのですが、読んだ感じ【傍点】からいくと、やはり翻訳作業の中から自然に生まれてきた文体であろうという印象を受けます。その直接のルーツは伝統的日本文学の中にではなく、むしろ他国言語の表現形態の中に見受けられるようです。僕自身も翻訳をするのが昔から好きで、その作業を通して文体や小説のスタイルの多くを学んできたわけですが、それと同種の形跡を僕は長谷川四郎の作品の中に見出さないわけにはいかないのです。
203頁
ひとつの言語で書かれた文書を他の言語=母国語に移し替えるという行為(翻訳作業)は、言うまでもなく一定の文体を必要とします。翻訳をしようとする人は、他言語を正確に理解する能力とともに、彼/彼女固有の文体を前もって身につけていなくてはなりません。それによって初めて翻訳は翻訳としての意味を有することになります。しかしそれと同時に、テキストの文体は逆向きに翻訳者の文体をも規定します。
203−204頁
僕がこの人の初期の作品を読んでまず感じたのは、ずいぶんロシアの小説の影響を受けているようだな、ということでした。というか、幾つかのものはまるでロシアの小説そのもの【傍点】みたいなのです。
205頁