1964年4月、『エヴゲーニイ・オネーギン』訳注がようやく出版される運びになったため、アメリカを訪れていたナボコフはハーヴァードの朗読会に招かれました。
このときがナボコフにとって最後のreadingになったとともに、最後のケンブリッジ訪問になりました。滞在は数泊だったようですが、Sheraton Commander Hotelに滞在したようです。
このホテルはアンバサダー・ホテルやコンチネンタル・ホテルとは違って現在も営業中です。
ハーヴァード・スクエアから徒歩6、7分程度、ケンブリッジ・コモンという公園が目の前にあります。朗読会の会場になったサンダース劇場もほど近いです。
ここでナボコフは未来の伝記作者Andrew FieldやPeter Lubinに会いました。
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もっともナボコフの意(と事実)に背いた記述を繰り返したフィールドはナボコフから「破門」されますけれども。
On April 9 he traveled to Cambridge, Massachusetts, for another reading. [. . .] The same day, also at the Commander Hotel, Nabokov met a Harvard undergraduate, Peter Lubin, who would later write a couple of brilliant pieces on Nabokov [. . .].
[. . .]
Nabokov's evening at Sanders Hall, sponsored by the Harvard Advocate, would be his last public reading ever. AY 482-483
ボイドの伝記では"Sanders Hall"となっていますけれども、これはケアレスミスでしょう。Sanders TheatreあるいはMemorial Hallと呼ばれる建物で、かつてナボコフが『ドン・キホーテ』講義をした大教室がある場所です。
ちなみに(まったくの余談ですが)、『これからの「正義」の話をしよう』で有名なマイケル・サンデルが現在も講義をしているのがこの教室です。ナボコフはサンデル教授にさきがけること半世紀前、すでにここで「白熱教室」?をしていたわけです。
これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
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4月10日の朗読会の司会を務めたのはナボコフの旧友レヴィンでした。読まれたのは
"The Ballad of Longwood Glen"
A passage from Pale Fire
"An Evening of Russian Poetry"
だったということです。
この朗読会にはハーヴァードの卒業生だった作家のジョン・アップダイク(1932-2009)も出席していました。この時も、それ以降も、二人は直接会うことはなかったのですが、アップダイクはナボコフの朗読に感銘を受けたということです。アップダイクは『プニン』を50年代に『ニューヨーカー』で読んで以来、ナボコフ作品の熱心な読者でした。
アップダイクは、この年の9月には英訳された『ディフェンス』の書評を書いています。
Updike, John: "Grandmaster Nabokov". The New Republic (New York), 26 September 1964, pp. 15-18
また、1977年にナボコフが亡くなるとアップダイクは二本の追悼文を書きました。
「さらばVN 1977年7月」
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"In Memoriam" pp. 27-38.
In Memoriam: Vladimir Nabokov, 1899-1977, New York: McGraw-Hill, 1977.
1がシェラトン・コマンダー、2がサンダース劇場です。
後記)なお、1950年10月15日にもシェラトン・コマンダーに滞在した模様。