2022年5月26日刊行予定の共訳書、ローレンス・ヴェヌティ『翻訳のスキャンダルーー差異の倫理にむけて』(秋草俊一郎・柳田麻里訳、フィルムアート社)の目次・書影が公開されましたので、お知らせします。
翻訳がなぜスキャンダラスなのか──それは世界の文化、政治、経済を覆う不平等を暴いてしまうからだ。
本書の著者、ローレンス・ヴェヌティは、翻訳研究の第一人者のひとりである。
ヴェヌティは言う──現今翻訳が置かれている状況こそ、スキャンダルなのだ。
企業や政府、宗教団体、出版社などは、いまや翻訳なしには成り立たない。
だがそれゆえに、翻訳に着目することで、それらが暗黙の裡に依拠する不均衡が暴かれる。
聖書、ホメロスの詩、プラトンの議論、ウィトゲンシュタインの理論、日本や西アフリカの小説、広告、ビジネス・ジャーナリズム……
多様な分野の事例を通じて、複雑でデリケートな諸問題が追及される。
世の主流の価値観におもねる「同化」的圧力に抗して、マイノリティの声に耳を傾け、多様性を擁護する「異化」的翻訳を提唱する本書こそ、グローバル時代を生きるために必読の書である。「翻訳は、著作権法に疎まれ、学術界では軽視され、出版社や企業、政府、宗教団体からは搾取されるという烙印を押されている。思うに、翻訳があまりにも不利なあつかいを受けているのは、支配的な文化的価値観や制度の権威に疑念をいだく気づきを引きおこすからだ。」(イントロダクションより)
本書で著者が暴く「翻訳のスキャンダル」とはなにか。それは世界の文化、政治や経済を覆う不均衡だ。世界で流通する翻訳のうち、英語からの翻訳が圧倒的な割合を占める反面、英語への翻訳は少なく、全書籍の三パーセント以下である。そして、その割合としては少ない翻訳においても、英訳はさまざまな制約や制限をうけてしまう。本書で著者はその不均衡を──翻訳が文化にとりこまれ、あるいはとりこまれたように見せて文化を改変する様子を──克明に描き出している。
(訳者あとがきより)目次
イントロダクション
第一章 異種性
マイナー文学を書くということ/マイノリティ化プロジェクト/言語学の限界/科学的モデル第二章 著者性
二次的な著者性/学問のバイアス/翻訳の再定義第三章 著作権
現況/矛盾まみれの「独自な著者性」/翻訳者の著者性の根拠/救済策第四章 文化的アイデンティティの形成
外国文化の表象/国内の主体の創造/翻訳の倫理第五章 文学の教育
教室での翻訳/翻訳文学の教育学第六章 哲学
翻訳により得られるもの/哲学翻訳の方略第七章 ベストセラー
受容/編集と翻訳/ハイブラウのベストセラー第八章 グローバリゼーション
商業と文化の非対称/トランスナショナル・アイデンティティ/抵抗としての翻訳/モダニティを翻訳する/場所の倫理訳者あとがき